上野のあとは恵比寿に移動して... 東京都写真美術館で開催中の「世界報道写真展2018」を見に行きました。東京では8月5日まで、のち大阪、大分、京都、滋賀に巡回します。
毎年開催されている「世界報道写真コンテスト」で、今年入賞した8部門42人の作品が展示されています。ポスターの衝撃的な写真は今年の大賞作品で、ベネズエラ・AFP通信のロナルド・シュミット氏が受賞しました。ベネズエラで大統領に対する抗議デモが警察機動隊と衝突。オートバイの燃料タンクが爆発し、炎に包まれた若者の姿を追っています。
このほか今年も、テロや紛争、弾圧、貧困など、過酷な現状を捕えた作品が数多くありました。ここでは比較的刺激の少ない作品をご紹介しますが、一見アートのように見える作品でも、描かれている背景は重いです。
昨年は先進国を中心に女性が差別やハラスメントを訴えたMe Too運動が起こりました。しかしその声さえも上げられない女性たちがいることを、本展を見て改めて思いました。上の写真は人々の部・組写真1位に選ばれた、オーストラリアのアダム・ファガーソン氏の作品。ナイジェリアでボコ・ハラムに誘拐され、自爆テロを強要された少女たちを撮影しています。
この他にも、経済の衰退でセックスワーカーにならざるをえなくなったロシアの女性たち、全身を覆う水着を着てようやく水泳を教えてもらえるようになったイスラムの少女たち、性暴力を避けるために思春期になると胸が目立たないようバンドで圧迫させられるカメルーンの少女たちをとらえた作品がありました。
ミャンマーの少数民族ロヒンギャの苦難を描いた作品もいくつかありました。これは一般ニュースの部・単写真3位に選ばれた、バングラデシュのムハンマド・マスフィクアー・アクタール・ソーハン氏の作品。対岸の仮設住居区から自分たちの村が燃えている様子を見守るロヒンギャ難民を撮影しています。
環境の部・組写真2位に選ばれた、イタリアのルカ・ロカテッリ氏の作品。狭い国土ながら革新的な農業技術で、アメリカに次ぐ世界第2位の食品輸出国を実現しているオランダを紹介しています。農地が年々減少し、食料自給率が低い日本の将来へのヒントが見つかるかも...と思いながら見ました。
人々の部・単写真1位に選ばれた、スウェーデンのマグナス・ウェンマン氏の作品。レジグネーション(生存放棄)症候群という病気で、何年も昏々と眠り続けているコソボ難民の姉妹の姿をとらえています。原因は不明ですが、トラウマやうつ病が関係すると考えられています。少女たちが体験した過酷な過去が、内なる命を奪っているように感じられました。
未知の文化に出会えることもこの写真展の魅力です。これは人々の部・単写真3位に選ばれた、中国のリ・ファイフェン氏の作品。中国中部の黄土高原で2000年以上の歴史をもつ横穴式洞窟住居”ヤオトン”に住む兄弟の姿をとらえています。土の中なので断熱効果も抜群だとか。窓から入る柔らかな陽射しにフェルメールの絵画を思い出しました。
スポーツの部・組写真3位に選ばれたデンマークのニコライ・リナレス氏の作品。スペイン国内でも賛否両論の闘牛ですが、多くの少年がスターになることを夢見て闘牛学校に通っているそうです。夜の街中でひとり練習する少年の姿に、ふと映画”リトル・ダンサー”を思い出しました。
自然の部・単写真2位に選ばれた、ドイツのトマス・P・ペシャク氏の作品。南アフリカ領マリオン島に生息するイワトビペンギンは、絶滅危惧種に指定され、数が年々減っているそうです。ペシャク氏は、やはり数が激減しているナミビアに生息するアフリカペンギンの写真でも今回入賞しています。
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日本の写真家の入賞はありませんでしたが、日本を撮影した写真では、(日光猿軍団など)ニホンザルを興行目的で訓練する文化を描いた作品、また世界各地のごみ問題をとらえた作品の中に日本の古紙回収の写真が含まれていました。
今年の受賞作品は、こちらのサイトで見ることができます。
WORLD PRESS PHOTO 2018
また他の年の感想はこちら。
世界報道写真展2019
世界報道写真展2017
世界報道写真展2011-2016