@『驕れる千鶴』「世間の目」地位と出世・金を目的に嫁になる(人は欲に集る)、とは世間が噂を立て、ひもじい思いをした嫁・新妻の心境である。実は昔から憧れていた人の基に嫁いだのに「世間の目」は冷ややかに映る。現代でも「玉の輿」とかで年齢層が離れていたり、立場があまりにも乖離していたりするとその様に視るのは変わらない。だが一番大切なことは、本人が真意を通し続けることかも知れず、そのうちに世間は冷め、要らぬ噂も立たなくなるのを待つしかない、ということかも知れない。人は他人の不幸をおもしろ、可笑しくしたいのだ。『驕れる人、驕られる人」驕るとは「いばる」「ほしいまま」という意味。『平家物語』の一節「おごれる人も久しからず」から「驕る平家は久しからず」がある。意味は「思いあがって高ぶる人はその身を長く保つことができない』と言う。
『山本周五郎作品集8』山本周五郎
「風車」
侍の次男三男は仕官探しが当たり前の時代、金之助は周りから支援を受けて何不自由のないのんびりした人物だった。それも200石以上でなければ仕官しないと構えていた。ある日身の回りを御世話していた娘おつゆがこのままでは出世もできないと、周りからの支援金を断り、金之助に「戦国の世にも草履取りは何千人といたはず、けれど太閤殿下と言われるまでに出世をなすったのはお一人でございます」と今までの甘えを断ち切り突き放すよう厳しく言うと、金之助が目覚る「200石を望むのは己の才能を自ら200石に売るのと同じではないか、身分の栄達はせずとも、心だけは必ず対応になって見せるぞ」。お世話をしたおつゆは金之助の出世を夢見ていた。その後金之助は別れて初めって知った、おつゆの存在を。(内助の功・周りの助言で立ち直る)
「驕れる千鶴」
嫁の引き手数多の娘があろうか年老いた家老の妻になる。世間では地位と金を目的に嫁いだと噂された。ある時藩内での動乱で家老が若い、わがままな藩主とぶつかり引退寸前で山奥に退くと、嫁いだばかりの妻に別れを告げた。その後山に住み着いた夫に寺の和尚が御世話したのがその妻で、山での貧相な生活を苦ともせず、夫に支えていた。ところが班の情勢が変わり、夫、元家老に復帰の命が降ると妻は寂しくなるばかりだった。それは夫の妻になった理由は地位と金ではなく真から夫を昔から慕い嫁になりたかったからだと・・・「驕れる人は驕れる面を脱いだ、孔雀の羽を取れば鶴の清楚な姿であった」(相思相愛・妻の夏烈な思い)
「武道用心記」
武士孫次郎が商人伝吉を騙し、子を宿した娘(伝吉の妹)を半殺しにした。その伝吉が仇をするが捕まる。その孫次郎が国元に帰り、出世するとその役所の上役の娘を嫁にする話が出た。ある日、流人船から逃げ出した仲間の一人がその娘の従兄真之介(癇癪持ちでしょっちゅう喧嘩になる癖を堪えていた)に捕まるが「敵討ちをしたい」と申し出たことで逃すが、実はその敵討ちの相手が真之介の従姉妹双葉の許嫁、国元に帰ってきたばかりの武士孫次郎だった。ある夜、流人の一人が殺されたと知ると敵討ちの孫次郎が証拠隠しに殺害したことがわかった。その後その孫次郎が真之介の従姉妹双葉を誘い出すと悪いことに流人の仲間に襲われ、仇を打つべく構えていた。それを知った真之介は流人達に敵討ちとお縄を許し、双葉を助ける。 双葉に自分の嫁になるように告白する。(人は見かけによらぬもの)
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