柴田典子の終活ブログ「エンディングノート知恵袋」

エンディングデザインコンサルタント柴田典子のブログ。
葬儀に関わらず「賢い老い支度」として終活全般のお話もしています。

柩の釘打ちは、しません

2008年07月25日 | お葬式
まだ、8歳だった私が鮮明に覚えているシーンがあります。
「ここへおいで」と呼ばれ手に小石を持たされました。
「ここを石で叩いて」と言われ、板の上を叩きました。
「違う、違う、この釘の上を叩いて」
言われた通りにして、その後を何人もの人が同じように釘を叩いていました。
確か、私が一番最初に呼ばれた気がします。
12歳で亡くなった、従姉のお葬式でした。

今、思えば棺に釘を打っていたのですね。
柩の中の従姉の顔は覚えて無いのに
小石を持たされたことだけはハッキリ思い出せるのです。
最近は柩の蓋に釘打ちをしなくなりましたが
地域によっては、この慣習がしっかり残っている所もあります。

昔は柩の作りも雑で、その上、墓地まで葬列を組んで、柩を担いでいきました。
途中で蓋が外れぬように、遺体を落さぬように釘を打ったといわれています、
又、その昔、死は恐ろしい悪霊の仕業と考えられた事もあり
悪霊を閉じ込めてしまう為の釘うちでもあったようです。

現在の柩はとてもよく出来ています。
蓋もしっかりと閉まります。
火葬場へ向うのも人の手ではなく、霊柩車で送ります。
その為、蓋を釘で打つ必要がなくなりました。

それに釘を打つ音は、遺族には故人を閉じ込めてしまう冷たい音に聞こえます。
事実、遺族には釘打ちが無いほうが歓迎されています。



私にはもう1つ釘打ちの嫌な思い出があるのです。
葬儀の仕事を始めて間もない頃です。
まだ、パートのオバちゃんだった頃、ある漁村で葬儀がありました。
そこの葬儀は、葬儀屋さんだけでなく、タクシーの運転手さんとか
バスの運転手さんたちも、葬儀の担い手として手伝っています。
「任せておきな!」の乗りで手馴れた感じでした。

出棺が迫り、柩に釘を打つ時に事件は起きました。
柩が良質になった分だけ、蓋の材質も硬くなっており
おまけに蓋の角が少し傾斜がついています。
釘が打ちにくい状況です。
当時は、前もって釘を打ち易いようにキリで穴を開けておいたりしたのですが
その日は、タクシーの運転手さんが「俺がやってやるよ」と前に進みました。

思い切り叩いた釘は、跳ねて飛んでしまったのです。
それも、遺族の娘さんの額に飛んでいきました。
すぐに葬儀担当者は駆け寄ってお詫びしていました。
幸いにして、怪我はありませんでしたが
一瞬、その場は凍りつきました。

喪主さんは何も言わずに出棺されましたが
後で担当者はお叱りを受けたようです。
喪主さんも、地元出身のタクシーの運転手さんを
知っていたので、大事にはならなかったようです。

葬儀の仕事を他業種の人に任せるような事はすべきではありませんし
そういう、いい加減な仲良し関係は仕事の責任も曖昧にします。
多分このタクシーの運転手さんは、喪主や釘が当たった遺族の娘さんに
謝罪もしなかったと思います。

こんな事件はこれが最初で、最後でしたが。
その後、柩の釘うちが無くなって、ホッとしました。

出棺の時、少しの距離でも親族が柩を持ちますね。
これは、昔の墓地へ行く葬列の名残です。

それともう1つ、棺と言う字と柩という字がありますが
遺体が入ると柩という字を使います。
だから、霊柩車と書くのです。

と調べましたが、もし違っていたらどなたか訂正してください。