lurking place

ニッポンのゆる~い日常

不適切な「議題設定」

2013-02-15 08:11:44 | 政府
不適切な「議題設定」


http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130215/plc13021503100003-n1.htm


 安倍晋三首相は、2月下旬に予定されている訪米のさい、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)について、オバマ大統領から「聖域なき関税撤廃」を目指すのか否か「感触」を得ると述べている。しかし、たとえ外交が政府の専権事項だとしても、これは国民に提示するアジェンダ・セッティング(議題設定)としては不適切と言わざるをえない。

 というのは、貿易だけで成立している都市国家でもなければ「聖域なき関税撤廃」など不可能であり、ほかでもない米国こそ「聖域なき関税撤廃」を望んでいないからだ。米国はすでにオーストラリアとの米豪FTA(自由貿易協定)において砂糖を例外品目としたが、TPPにおいてもこれを前提とすると宣言している。また、ニュージーランドからの乳製品も、断固として例外品目とすることを目指している。



 米国は典型的な農業保護国で、間接補助金と高関税で保護してきた砂糖以外にも、タバコ関税350%、落花生163・8%、ピーナツバター131・8%など高関税品目が多くある。また履物37・5%、ガラス製品は最高で38%、衣料品も最高で32%、トラック25%など多くの分野で高関税を維持してきた。オバマ大統領は支持者である国内製造の某スポーツ・シューズ・メーカーに配慮して、履物の例外品目扱いをほのめかし、「ダブルスタンダード」と批判されたほどだ。

 安倍首相がオバマ大統領に「米国はTPPで聖域なき関税撤廃を考えていますか」と聞けば、オバマ大統領は「そんなことは考えていない」と答えるに決まっている。それをTPP参加の条件とするというのは事実上の参加表明であり、たとえ安倍首相の本意ではないとしても、国民を欺いていることになるだろう。



 これまでも、TPPについて日米政府のアジェンダ・セッティングには奇妙なものが多かった。日本の高官が米国の高官に「米国は日本の公的医療保険制度を廃止しようとしていますか」と聞いたら「他国の制度を廃止するわけがない」と答えたからもう安心だと報道された。

 しかし、2010年9月に米国通商代表部は「医薬品へのアクセスの拡大のためのTPP貿易目標」で、TPP参加国に公的医療保険制度における「払(はらい)戻(もどし)制度」の公平性と透明性を要求すると述べている。米国は「廃止」を要求しないにしても明らかに「変更」を目指しているのだ。米国政府はこれを「薬価問題」だとしているが、払戻制度は保険適用範囲を決定する公的医療保険制度の根幹である。



 すでに米豪FTAおよび米韓FTAにおいて、米国は相手国に公的医療保険制度を「変更」させることに成功した。米国は医療機器でも、参加国の制度変更を言い出す可能性がある。自国には公的医療保険制度も払戻制度もないにもかかわらず、自国の医療産業のために他国にその変更を要求する米国の姿勢はやはり傲慢なものといえる。


 安倍首相が国民を欺かないためには、まず参加・不参加以前に欺瞞(ぎまん)的なアジェンダ・セッティングをやめるべきだ。そして公的医療保険制度・投資家保護条項・保険問題も考慮した、昨年の自民党による「TPPについての考え方」に立ち戻るべきだろう。(ひがしたに さとし)


2013.2.15 03:09











この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 2013/02/12 予算委員会 日本... | トップ | 竹島を「聖地」にした韓国の甘え »

政府」カテゴリの最新記事