6月29日付 産経新聞【正論】より
韓国の歴史認識に潜む尚古主義 筑波大学大学院教授・古田博司氏
http://www.sankei.com/column/news/150629/clm1506290001-n1.html
≪過激化する「衛正斥邪」≫
反日の国家的扇動により戦後最悪の日韓関係を醸成した朴槿恵政権は6月21日、尹炳世外相を日本に送り、日韓外相会談をもった。会談では「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産への登録をめぐり、韓国の「百済の歴史地区」とともに登録されるよう、日韓両国が協力していくことで一致した。
「百済の歴史地区」とは5月4日、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関である国際記念物遺跡会議(イコモス)が、韓国の公州・扶餘・益山の百済時代を代表する遺産を網羅する「百済歴史遺跡地区」を世界遺産に登録するようユネスコに勧告したもので、ドイツで開催される世界遺産委員会で登録決定の可能性を探っていた。つまり、今回の両遺産申請抱き合わせは韓国が日本に妥協するための苦肉の策だった。
さらに、日韓の国交正常化から50年となる6月22日、東京とソウルでおのおの開かれる記念行事について、東京の行事には安倍晋三首相が、ソウルの行事には朴槿恵大統領が出席した。すなわち、韓国は事ここに至り、日韓基本条約の基本線にもどり、日米の協力のもとに築き上げた、戦後自由経済と自律との並立への回帰を余儀なくされたのである。以後韓国は、唯一の自律の表現であった「反日」のトーンを下げざるを得ず、日米という外国勢力の下で逆に一層他律的になることだろう。
北朝鮮のような外国無視の「自律」を正統性の表現と見る韓国の従北勢力は、3月に「生麦事件」のごときリッパート駐韓大使襲撃事件を起こし、「反日」から「攘夷」へ外勢排撃へのトーンを上げている。外資占有率が50%を超える企業が、毎年4月期に外国人投資家に行う配当が、韓国の国民生産の国内消費を無化してしまう。
彼らにとって経済植民地と化した「南朝鮮」は他律そのものであり、韓国を自律の道へと導くべく、行動はさらに過激化するものと思われる。民族の行動パターンとしてはこれを「衛正斥邪(えいせいせきじゃ)」(正道を衛(まも)り邪道を撃退する)という。
≪憤怒が向けられる可能性≫
彼らの自律と他律をめぐる悲哀は、行き止まりの「廊下国家」という不運にある。自律を取れば李朝や北朝鮮のように国境を閉ざし防衛経済に転ずるしかない。その代わりに国内は貧窮化する。国を開き、外資を呼び込めばやがてはのみ込まれ他律的になる。
だが、同情してはならない。今回の世界遺産申請抱き合わせでもわかるように、その自律行動は、ゴネ、イチャモン、タカリという至極低劣な「民族の最終独立兵器」によって全うされるのが常だからである。だからこの点に関しての彼らの「恥」意識は存在しないのだ。むしろ今後、さまざまな要求を抱き合わせてくる可能性がある。わが国が注意しなければならないことはむしろこちらの方で、他律的にされたとして嫉妬と憤怒を向けてくるかもしれない。
現在、世界政治を俯瞰(ふかん)するに、「尚古主義」が華やかである。中国の「中華の夢」、ロシアの「ソ連復興」、ムスリムの「カリフ制再興」、これらは単なる戦略ではなく、本当に昔は良かったと思い込んで行動に移されているのである。「漢代には南シナ海も東シナ海も中国のものだった」と、本当に思い込んでスプラトリーに人工島や軍事拠点を造っている。ロシアも同じ尚古主義でウクライナからクリミア半島をもぎ取った。
「イスラム国」に至っては悲願の「カリフ制再興」を実践に移し、イラク・シリア国境を廃棄させ、国境画定のサイクス・ピコ協定を無化しようとしている。
≪示された人権意識の停滞≫
尚古主義とは、江戸末期を生きた祖父が、明治生まれの孫に「昔は食べ物がもっとうまかった」といい、「ライスカレーも?」と孫に問われると、「そうだ。オムレツもだ」と、さらに過激化していくような主義のことである。
孫はそう思い込んで仮想の復興に邁進(まいしん)する。日本で「歴史認識問題」とか「歴史戦」とかいわれている国際問題の根底にあるのは、実は前近代エトスたちのもつ「尚古主義」との戦いなのである。
現在ではこれが主権国家の領域を破壊するほど危険になっていることを、われわれは中国・ロシア・「イスラム国」の現在から透視しなければならないだろう。
さて、韓国である。日本統治時代の対日協力者子孫の財産没収を求める法案の国会成立から、加藤達也産経新聞前ソウル支局長の在宅起訴に至るまでの法治主義の崩壊、セウォル号沈没やMERS(マーズ)感染拡大は自然災害ではなく人為的な事件であり、韓国人の人権意識の停滞を明示している。
近代化に失敗した韓国には、大国のごとき危険な尚古主義は果たせないまでも、歴史認識に名を借りた卑劣な尚古主義による攻撃がこれからも繰り返されることになろう。わが国では先般、参院予算委員会で三原じゅん子参院議員が「八紘一宇」という古式ゆかしい言葉を用いたが盛り上がりもしなかった。これが健全なる近代の成熟と近代化の終了である。(ふるた ひろし)
韓国の歴史認識に潜む尚古主義 筑波大学大学院教授・古田博司氏
http://www.sankei.com/column/news/150629/clm1506290001-n1.html
≪過激化する「衛正斥邪」≫
反日の国家的扇動により戦後最悪の日韓関係を醸成した朴槿恵政権は6月21日、尹炳世外相を日本に送り、日韓外相会談をもった。会談では「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産への登録をめぐり、韓国の「百済の歴史地区」とともに登録されるよう、日韓両国が協力していくことで一致した。
「百済の歴史地区」とは5月4日、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関である国際記念物遺跡会議(イコモス)が、韓国の公州・扶餘・益山の百済時代を代表する遺産を網羅する「百済歴史遺跡地区」を世界遺産に登録するようユネスコに勧告したもので、ドイツで開催される世界遺産委員会で登録決定の可能性を探っていた。つまり、今回の両遺産申請抱き合わせは韓国が日本に妥協するための苦肉の策だった。
さらに、日韓の国交正常化から50年となる6月22日、東京とソウルでおのおの開かれる記念行事について、東京の行事には安倍晋三首相が、ソウルの行事には朴槿恵大統領が出席した。すなわち、韓国は事ここに至り、日韓基本条約の基本線にもどり、日米の協力のもとに築き上げた、戦後自由経済と自律との並立への回帰を余儀なくされたのである。以後韓国は、唯一の自律の表現であった「反日」のトーンを下げざるを得ず、日米という外国勢力の下で逆に一層他律的になることだろう。
北朝鮮のような外国無視の「自律」を正統性の表現と見る韓国の従北勢力は、3月に「生麦事件」のごときリッパート駐韓大使襲撃事件を起こし、「反日」から「攘夷」へ外勢排撃へのトーンを上げている。外資占有率が50%を超える企業が、毎年4月期に外国人投資家に行う配当が、韓国の国民生産の国内消費を無化してしまう。
彼らにとって経済植民地と化した「南朝鮮」は他律そのものであり、韓国を自律の道へと導くべく、行動はさらに過激化するものと思われる。民族の行動パターンとしてはこれを「衛正斥邪(えいせいせきじゃ)」(正道を衛(まも)り邪道を撃退する)という。
≪憤怒が向けられる可能性≫
彼らの自律と他律をめぐる悲哀は、行き止まりの「廊下国家」という不運にある。自律を取れば李朝や北朝鮮のように国境を閉ざし防衛経済に転ずるしかない。その代わりに国内は貧窮化する。国を開き、外資を呼び込めばやがてはのみ込まれ他律的になる。
だが、同情してはならない。今回の世界遺産申請抱き合わせでもわかるように、その自律行動は、ゴネ、イチャモン、タカリという至極低劣な「民族の最終独立兵器」によって全うされるのが常だからである。だからこの点に関しての彼らの「恥」意識は存在しないのだ。むしろ今後、さまざまな要求を抱き合わせてくる可能性がある。わが国が注意しなければならないことはむしろこちらの方で、他律的にされたとして嫉妬と憤怒を向けてくるかもしれない。
現在、世界政治を俯瞰(ふかん)するに、「尚古主義」が華やかである。中国の「中華の夢」、ロシアの「ソ連復興」、ムスリムの「カリフ制再興」、これらは単なる戦略ではなく、本当に昔は良かったと思い込んで行動に移されているのである。「漢代には南シナ海も東シナ海も中国のものだった」と、本当に思い込んでスプラトリーに人工島や軍事拠点を造っている。ロシアも同じ尚古主義でウクライナからクリミア半島をもぎ取った。
「イスラム国」に至っては悲願の「カリフ制再興」を実践に移し、イラク・シリア国境を廃棄させ、国境画定のサイクス・ピコ協定を無化しようとしている。
≪示された人権意識の停滞≫
尚古主義とは、江戸末期を生きた祖父が、明治生まれの孫に「昔は食べ物がもっとうまかった」といい、「ライスカレーも?」と孫に問われると、「そうだ。オムレツもだ」と、さらに過激化していくような主義のことである。
孫はそう思い込んで仮想の復興に邁進(まいしん)する。日本で「歴史認識問題」とか「歴史戦」とかいわれている国際問題の根底にあるのは、実は前近代エトスたちのもつ「尚古主義」との戦いなのである。
現在ではこれが主権国家の領域を破壊するほど危険になっていることを、われわれは中国・ロシア・「イスラム国」の現在から透視しなければならないだろう。
さて、韓国である。日本統治時代の対日協力者子孫の財産没収を求める法案の国会成立から、加藤達也産経新聞前ソウル支局長の在宅起訴に至るまでの法治主義の崩壊、セウォル号沈没やMERS(マーズ)感染拡大は自然災害ではなく人為的な事件であり、韓国人の人権意識の停滞を明示している。
近代化に失敗した韓国には、大国のごとき危険な尚古主義は果たせないまでも、歴史認識に名を借りた卑劣な尚古主義による攻撃がこれからも繰り返されることになろう。わが国では先般、参院予算委員会で三原じゅん子参院議員が「八紘一宇」という古式ゆかしい言葉を用いたが盛り上がりもしなかった。これが健全なる近代の成熟と近代化の終了である。(ふるた ひろし)