5月31日付 産経新聞【正論】より
定数違憲判決は解散を縛らない 日本大学教授・百地章氏
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110531/stt11053103240001-n1.htm
≪遅きに失した不信任本格化≫
菅直人内閣に対する不信任決議をめぐり、連日、与党内や与野党間で虚々実々の攻防がなされているが、最近の世論調査で、菅首相の退陣を求める声は7割弱を占める(5月20日の時事通信)。自民党政権時代と違い、マスメディアの多くは民主党政権の度重なる失政と無責任に目をつぶり、一向に批判を加えない。そのようなテレビや新聞しか見ない国民でさえ、政権維持しか頭にない菅首相には愛想を尽かしたのであろう。退陣を望む理由としては、首相の「指導力の欠如」や「原発事故対応への不満」があげられている。
原発事故について、政府や東京電力の責任は極めて重大である。とりわけ、(1)震災翌日に強行された首相の原発視察によって東電のベント(排気)が遅れた(2)東電による原子炉への「海水注入」が首相の反対により危うく中断される危険があった(3)地震発生後、オバマ米大統領から原発事故への全面的支援の申し出があったにもかかわらず、首相が拒み続けた-ことの責任は重大である。大失態の積み重ねが大惨事に繋がったことを考えれば、菅内閣に対する不信任決議は遅きに失したということになろう。それに、首相には外国人献金問題で重大な疑惑もある。
≪菅氏の存在自体が復興の妨げ≫
他方、首相のリーダーシップの欠如により、震災から2カ月半にもなるのに、復興は一向に進捗(しんちょく)せず、復興基本法さえ成立していない。被災者の方々の苦難に満ちた日々と深い悲しみを思えば、このまま荏苒(じんぜん)、時間を浪費することなど許されない。今や菅首相の存在自体が復興の妨げになっている。それ故、速やかに首相の退陣を求め、本格的復興のための体制を整える必要がある。非常時に首相を代えるなとか、政局と絡めるなとかいった主張は、所詮、政府やマスメディアが作り出した菅政権延命のためのへ理屈でしかない。
各種報道によれば、今週辺りが内閣不信任案提出の山場となりそうだが、もし可決されれば、首相はイチかバチかの解散に打って出るとも伝えられている。それに対して、現状では解散は不可能だとする説もある。その根拠は平成21年当時の議員定数配分規定を違憲状態にあるとした3月23日の最高裁判決と、総選挙どころではないとされる被災地の現状である。
前者につき5月17日に閣議決定された政府答弁書では、「内閣による衆議院解散の決定を憲法上制約する規定は存在しない」「現行の公職選挙法下での解散は可能」とされている。ただ答弁書は理由を語っておらず、解散についてはなお疑問を呈する向きもある。
≪内閣専権事項の「統治行為」≫
しかし、衆議院の解散に関しては、内閣が自由に判断できるとするのが通説であり、最高裁も、衆議院解散のように、「直接国家統治の基本に関する高度の政治性のある国家行為(いわゆる統治行為)」については、司法審査権が及ばず、その当否は政治部門(解散の場合は内閣)、最終的には、主権者国民の判断に委ねられるとしている(昭和35年の「苫米地判決」)。したがって、憲法上、解散に対する制約は存在しない。
また先の最高裁判決でも、現行の議員定数不均衡が「違憲状態」にあると判示しただけで、選挙を「違憲」としたわけではない。それ故、国会には速やかに議員定数の見直しをはかる政治的義務があるものの、これによって首相の解散権が法的に拘束されることはない。それに、もし議員定数配分規定が改正されない限り解散できないとなれば、国会や区割り委員会が改正を怠って首相の解散権を封じることも可能となるが、これは解散を政治部門(内閣)の専権とした最高裁判決と矛盾する。したがって、先の最高裁判決は解散の障害とならないのである。
次に、被災地の現状を理由として解散を否定する見解であるが、被災自治体のうち13の市町村では延期期限とされた9月22日までの選挙が困難とされており、問題は残ろう。しかし、国政選挙の実施は本来国の仕事であって、法定受託を受けた自治体に支障があれば国をあげて実現のために努力をすべきである。しかも、責任者である総務大臣を含め内閣が全会一致で解散は可能だと判断した以上、選挙ができないはずがない。
菅首相は、国会での政治責任追及を恐れ、6月22日には国会を閉会し、本格的復興のための第2次補正予算は8月の臨時国会に提出する予定だという。しかし、政権延命のため2カ月もの政治空白を作ることは、一日も早い復興を待ち望んでいる被災者や国民に対する裏切り行為であって、断じて許されない。この期間を活用すれば、解散・総選挙を実施することなど決して難しくはなかろう。
現在の民主党政権は、大震災の陰に隠れて「人権侵害救済法」という名の言論弾圧法など危険な法案を制定しようとしている。したがって、本格的な震災復興はもちろん、民主党の「亡国政策」を阻止するためにも、速やかに政権交代を行い、自民党中心の保守政権を樹立する必要がある。(ももち あきら)
定数違憲判決は解散を縛らない 日本大学教授・百地章氏
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110531/stt11053103240001-n1.htm
≪遅きに失した不信任本格化≫
菅直人内閣に対する不信任決議をめぐり、連日、与党内や与野党間で虚々実々の攻防がなされているが、最近の世論調査で、菅首相の退陣を求める声は7割弱を占める(5月20日の時事通信)。自民党政権時代と違い、マスメディアの多くは民主党政権の度重なる失政と無責任に目をつぶり、一向に批判を加えない。そのようなテレビや新聞しか見ない国民でさえ、政権維持しか頭にない菅首相には愛想を尽かしたのであろう。退陣を望む理由としては、首相の「指導力の欠如」や「原発事故対応への不満」があげられている。
原発事故について、政府や東京電力の責任は極めて重大である。とりわけ、(1)震災翌日に強行された首相の原発視察によって東電のベント(排気)が遅れた(2)東電による原子炉への「海水注入」が首相の反対により危うく中断される危険があった(3)地震発生後、オバマ米大統領から原発事故への全面的支援の申し出があったにもかかわらず、首相が拒み続けた-ことの責任は重大である。大失態の積み重ねが大惨事に繋がったことを考えれば、菅内閣に対する不信任決議は遅きに失したということになろう。それに、首相には外国人献金問題で重大な疑惑もある。
≪菅氏の存在自体が復興の妨げ≫
他方、首相のリーダーシップの欠如により、震災から2カ月半にもなるのに、復興は一向に進捗(しんちょく)せず、復興基本法さえ成立していない。被災者の方々の苦難に満ちた日々と深い悲しみを思えば、このまま荏苒(じんぜん)、時間を浪費することなど許されない。今や菅首相の存在自体が復興の妨げになっている。それ故、速やかに首相の退陣を求め、本格的復興のための体制を整える必要がある。非常時に首相を代えるなとか、政局と絡めるなとかいった主張は、所詮、政府やマスメディアが作り出した菅政権延命のためのへ理屈でしかない。
各種報道によれば、今週辺りが内閣不信任案提出の山場となりそうだが、もし可決されれば、首相はイチかバチかの解散に打って出るとも伝えられている。それに対して、現状では解散は不可能だとする説もある。その根拠は平成21年当時の議員定数配分規定を違憲状態にあるとした3月23日の最高裁判決と、総選挙どころではないとされる被災地の現状である。
前者につき5月17日に閣議決定された政府答弁書では、「内閣による衆議院解散の決定を憲法上制約する規定は存在しない」「現行の公職選挙法下での解散は可能」とされている。ただ答弁書は理由を語っておらず、解散についてはなお疑問を呈する向きもある。
≪内閣専権事項の「統治行為」≫
しかし、衆議院の解散に関しては、内閣が自由に判断できるとするのが通説であり、最高裁も、衆議院解散のように、「直接国家統治の基本に関する高度の政治性のある国家行為(いわゆる統治行為)」については、司法審査権が及ばず、その当否は政治部門(解散の場合は内閣)、最終的には、主権者国民の判断に委ねられるとしている(昭和35年の「苫米地判決」)。したがって、憲法上、解散に対する制約は存在しない。
また先の最高裁判決でも、現行の議員定数不均衡が「違憲状態」にあると判示しただけで、選挙を「違憲」としたわけではない。それ故、国会には速やかに議員定数の見直しをはかる政治的義務があるものの、これによって首相の解散権が法的に拘束されることはない。それに、もし議員定数配分規定が改正されない限り解散できないとなれば、国会や区割り委員会が改正を怠って首相の解散権を封じることも可能となるが、これは解散を政治部門(内閣)の専権とした最高裁判決と矛盾する。したがって、先の最高裁判決は解散の障害とならないのである。
次に、被災地の現状を理由として解散を否定する見解であるが、被災自治体のうち13の市町村では延期期限とされた9月22日までの選挙が困難とされており、問題は残ろう。しかし、国政選挙の実施は本来国の仕事であって、法定受託を受けた自治体に支障があれば国をあげて実現のために努力をすべきである。しかも、責任者である総務大臣を含め内閣が全会一致で解散は可能だと判断した以上、選挙ができないはずがない。
菅首相は、国会での政治責任追及を恐れ、6月22日には国会を閉会し、本格的復興のための第2次補正予算は8月の臨時国会に提出する予定だという。しかし、政権延命のため2カ月もの政治空白を作ることは、一日も早い復興を待ち望んでいる被災者や国民に対する裏切り行為であって、断じて許されない。この期間を活用すれば、解散・総選挙を実施することなど決して難しくはなかろう。
現在の民主党政権は、大震災の陰に隠れて「人権侵害救済法」という名の言論弾圧法など危険な法案を制定しようとしている。したがって、本格的な震災復興はもちろん、民主党の「亡国政策」を阻止するためにも、速やかに政権交代を行い、自民党中心の保守政権を樹立する必要がある。(ももち あきら)