尖閣に軍艦向けた中国…日本政府は何をしている! 妥協・棚上げでは何も解決せぬ
拓殖大教授 下條正男氏
http://www.sankei.com/west/news/160624/wst1606240003-n1.html
今月9日未明、中国とロシアの軍艦が相次いで尖閣諸島の接続水域で確認された。この事案も、中国国家海洋局直属の「国家海洋情報センター」が運営するウェブサイトの「最新情報」に記録されるのだろうか。というのも、尖閣問題を専管する同センターでは、中国海警局の公船が尖閣海域に進入した証拠をネット上に公開し、既成事実化を謀っているからだ。
その最初の記録には、「2014(平成26)年9月10日、中国海警局の公船『中国海警2350』『中国海警2166』『中国海警2101』『「中国海警2337』が引き続き中国の釣魚島領海内を巡航した」とある。
◇過去の外交を検証する時が来た
問題は、この中国側の挑発行為に対して、日本政府がどう対処するかにある。現段階では、日本政府がいくら「深刻に懸念をしている」としたところで、挑発行為は止めないからだ。
戦後70年、日本は今、過去の外交を検証する時に来ている。日本は「ポツダム宣言」受諾の直後、ソ連(ロシア)によって南樺太と千島列島、それに北方領土を侵奪され、講和条約が発効する3カ月前には、韓国によって竹島を掠奪された。
それからすでに半世紀以上の歳月が流れたが、解決の兆しは見えない。それどころか、日本の領土を奪ったロシアや韓国は領土問題を歴史問題に結び付け、それに尖閣諸島を狙う中国が、逆に日本批判を続けている。
◇中国の情報収集艦が日本を嘲笑
その中国政府が尖閣諸島に食指を伸ばすのは1971(昭和46)年12月30日。正式に領有権を主張したのだ。
以後、攻勢に出る時を待っていたが、2012(平成24)年9月11日、民主党政権による尖閣諸島の国有化がその引き金となった。13年7月、中国政府は国家海洋局を再編して中国海警局を発足させ、翌年12月30日には「国家海洋情報センター」が広報サイトを開設した。
一方の日本政府は台頭する中国に対して、日米同盟の強化と安保法制の立法化を急いだ。だが安保法制には、中国政府の挑発行為を抑止し、尖閣問題に終止符を打てる力があるのだろうか。
そんな疑問を呈するのは、今月15日午前3時半、日本を嘲笑(あざわら)うかのように、中国の情報収集艦が鹿児島県・口永良部島の領海内を航行したからだ。
◇今も昔も守勢に立たされ続ける日本の交渉
これは異常というほかない。日本は守勢に立たされ続けているのだ。だが日本が守勢に立たされるのは、日韓の「漁業協定」と、日台の「漁業取り決め」の交渉の時も同じだった。
竹島は歴史的にも日本領である。尖閣諸島も、歴史的に台湾や中国の領土であった事実はない。
だが、日韓漁業協定交渉では反日感情の前に譲歩し、台湾とは中国との尖閣問題をにらんで安易な妥協が図られ、「共同管理水域」を設定してしまった。
それは、竹島と尖閣諸島を棚上げして交渉に臨んだためで、その結果、日本政府は自国の漁民を犠牲にし、国益を損ねたのである。
これは当然の帰結といえた。日本には、国家主権に関する問題を持続的に研究する機関がないからだ。
◇中韓と似て非なる日本の総合海洋政策本部
日本でも平成19年4月20日、海洋基本法が成立し、政府機関として「総合海洋政策本部」が設置された。だがそれは中国の「国家海洋情報センター」や韓国の「東北アジア歴史財団」とは似て非なるものだった。
中国では、海警局の公船を戦略的に当該海域に接近させ、韓国では2005(平成17)年4月、「竹島の日」条例の制定に対抗し、「長期的・総合的な研究・分析と体系的・戦略的政策の開発」を目的に「東北アジアの平和のための正しい歴史定立企画団」を設立した。
「東北アジア歴史財団」はその後身で、竹島問題や慰安婦問題などについて司令塔役を果たしている。
◇長期的戦略のない日本
日本の総合海洋政策本部は、「関連機関に資料の提出、意見の表明、説明その他必要な協力を求める」としている。だが、東北アジア歴史財団は、理事長が「東北アジア歴史問題と独島と関連した国家政策に影響を及ぼす事案に対し、教育科学技術部長官及び外交通商部長官を経て、大統領に報告する」のである。
韓国では専門家が研究し、政策を立案して、それを韓国政府が外交に活用しているのだ。
一方、日本は韓国政府が打ち出した政策に対応し、その対策を関連機関に諮問するだけである。これでは長期的な戦略など無理な話で、その場しのぎの弥縫策(びほうさく)に終わらざるを得ない。
◇島根県に対しては、実は守勢の韓国側
国連の海洋法条約に沿って排他的経済水域の中間線を定める際には、竹島や尖閣諸島の問題は避けて通れない。それを棚上げするのは、自ら外堀を埋めるのと同じである。領土問題では、戦略的かつ持続的な対応が不可欠である。それは、「竹島の日」条例を制定した島根県の対応を見れば明らかだ。
島根県竹島問題研究会は、平成17年6月から10年以上、竹島問題に関して調査研究を行ない、時には韓国側との論争も試みた。
そのため韓国では、日本の外務省ではなく島根県の動きに対し敏感になっている。それも、表面的には韓国側が積極攻勢をかけ、島根県側が守勢に立たされているように見えるが、実は、守勢に立たされているのは韓国側である。
韓国側の誤った主張を島根県側がことごとく論破するので、反論せざるをえないからだ。
こちらが挑発し、戦略的に攻勢をかければ、韓国側は動かざるをえなくなる。日本側は相手を城攻めに誘い、所々で反撃すればよい。日米同盟や安保法制とは違った、もう一つの戦術である。
拓殖大教授 下條正男氏
http://www.sankei.com/west/news/160624/wst1606240003-n1.html
今月9日未明、中国とロシアの軍艦が相次いで尖閣諸島の接続水域で確認された。この事案も、中国国家海洋局直属の「国家海洋情報センター」が運営するウェブサイトの「最新情報」に記録されるのだろうか。というのも、尖閣問題を専管する同センターでは、中国海警局の公船が尖閣海域に進入した証拠をネット上に公開し、既成事実化を謀っているからだ。
その最初の記録には、「2014(平成26)年9月10日、中国海警局の公船『中国海警2350』『中国海警2166』『中国海警2101』『「中国海警2337』が引き続き中国の釣魚島領海内を巡航した」とある。
◇過去の外交を検証する時が来た
問題は、この中国側の挑発行為に対して、日本政府がどう対処するかにある。現段階では、日本政府がいくら「深刻に懸念をしている」としたところで、挑発行為は止めないからだ。
戦後70年、日本は今、過去の外交を検証する時に来ている。日本は「ポツダム宣言」受諾の直後、ソ連(ロシア)によって南樺太と千島列島、それに北方領土を侵奪され、講和条約が発効する3カ月前には、韓国によって竹島を掠奪された。
それからすでに半世紀以上の歳月が流れたが、解決の兆しは見えない。それどころか、日本の領土を奪ったロシアや韓国は領土問題を歴史問題に結び付け、それに尖閣諸島を狙う中国が、逆に日本批判を続けている。
◇中国の情報収集艦が日本を嘲笑
その中国政府が尖閣諸島に食指を伸ばすのは1971(昭和46)年12月30日。正式に領有権を主張したのだ。
以後、攻勢に出る時を待っていたが、2012(平成24)年9月11日、民主党政権による尖閣諸島の国有化がその引き金となった。13年7月、中国政府は国家海洋局を再編して中国海警局を発足させ、翌年12月30日には「国家海洋情報センター」が広報サイトを開設した。
一方の日本政府は台頭する中国に対して、日米同盟の強化と安保法制の立法化を急いだ。だが安保法制には、中国政府の挑発行為を抑止し、尖閣問題に終止符を打てる力があるのだろうか。
そんな疑問を呈するのは、今月15日午前3時半、日本を嘲笑(あざわら)うかのように、中国の情報収集艦が鹿児島県・口永良部島の領海内を航行したからだ。
◇今も昔も守勢に立たされ続ける日本の交渉
これは異常というほかない。日本は守勢に立たされ続けているのだ。だが日本が守勢に立たされるのは、日韓の「漁業協定」と、日台の「漁業取り決め」の交渉の時も同じだった。
竹島は歴史的にも日本領である。尖閣諸島も、歴史的に台湾や中国の領土であった事実はない。
だが、日韓漁業協定交渉では反日感情の前に譲歩し、台湾とは中国との尖閣問題をにらんで安易な妥協が図られ、「共同管理水域」を設定してしまった。
それは、竹島と尖閣諸島を棚上げして交渉に臨んだためで、その結果、日本政府は自国の漁民を犠牲にし、国益を損ねたのである。
これは当然の帰結といえた。日本には、国家主権に関する問題を持続的に研究する機関がないからだ。
◇中韓と似て非なる日本の総合海洋政策本部
日本でも平成19年4月20日、海洋基本法が成立し、政府機関として「総合海洋政策本部」が設置された。だがそれは中国の「国家海洋情報センター」や韓国の「東北アジア歴史財団」とは似て非なるものだった。
中国では、海警局の公船を戦略的に当該海域に接近させ、韓国では2005(平成17)年4月、「竹島の日」条例の制定に対抗し、「長期的・総合的な研究・分析と体系的・戦略的政策の開発」を目的に「東北アジアの平和のための正しい歴史定立企画団」を設立した。
「東北アジア歴史財団」はその後身で、竹島問題や慰安婦問題などについて司令塔役を果たしている。
◇長期的戦略のない日本
日本の総合海洋政策本部は、「関連機関に資料の提出、意見の表明、説明その他必要な協力を求める」としている。だが、東北アジア歴史財団は、理事長が「東北アジア歴史問題と独島と関連した国家政策に影響を及ぼす事案に対し、教育科学技術部長官及び外交通商部長官を経て、大統領に報告する」のである。
韓国では専門家が研究し、政策を立案して、それを韓国政府が外交に活用しているのだ。
一方、日本は韓国政府が打ち出した政策に対応し、その対策を関連機関に諮問するだけである。これでは長期的な戦略など無理な話で、その場しのぎの弥縫策(びほうさく)に終わらざるを得ない。
◇島根県に対しては、実は守勢の韓国側
国連の海洋法条約に沿って排他的経済水域の中間線を定める際には、竹島や尖閣諸島の問題は避けて通れない。それを棚上げするのは、自ら外堀を埋めるのと同じである。領土問題では、戦略的かつ持続的な対応が不可欠である。それは、「竹島の日」条例を制定した島根県の対応を見れば明らかだ。
島根県竹島問題研究会は、平成17年6月から10年以上、竹島問題に関して調査研究を行ない、時には韓国側との論争も試みた。
そのため韓国では、日本の外務省ではなく島根県の動きに対し敏感になっている。それも、表面的には韓国側が積極攻勢をかけ、島根県側が守勢に立たされているように見えるが、実は、守勢に立たされているのは韓国側である。
韓国側の誤った主張を島根県側がことごとく論破するので、反論せざるをえないからだ。
こちらが挑発し、戦略的に攻勢をかければ、韓国側は動かざるをえなくなる。日本側は相手を城攻めに誘い、所々で反撃すればよい。日米同盟や安保法制とは違った、もう一つの戦術である。