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ニッポンのゆる~い日常

皇位の安定を揺るがす「パンドラの箱」

2016-12-21 18:04:49 | 日本
【皇室制度を考える】


皇位の安定を揺るがす「パンドラの箱」 麗澤大教授・八木秀次氏氏


http://www.sankei.com/life/news/161221/lif1612210015-n1.html


 天皇陛下の退位には国民の一人として反対です。理由は2つあります。


 現行の憲法と皇室典範には、天皇陛下の生前における退位を認める制度はなく、むしろ明治の指導者たちによって積極的に排除された経緯があります。退位した天皇が上皇や法皇となって政治権力を振るったり、外部の圧力によって天皇が退位を迫られたりしたことがたびたびあったからです。その最たる例が南北朝の争乱でした。国民の対立や皇室の政治利用を招かないように天皇の終身在位は現代まで引き継がれてきているわけです。


 2つ目は、より本質的な問題です。天皇の自由意思によって退位を認めると、自由意思による即位拒否や短期間での退位を容認することにつながります。皇位継承資格のある男性皇族が限定される中、こうしたことが続けば皇位の安定性を揺るがし、皇室の存立を危うくします。つまり、天皇陛下の退位を認めることは、明治以降封印してきた「パンドラの箱」を開け、さまざまな問題を生じさせることになるのです。



 政府が特別措置法による退位実現を検討しているという報道もありますが、これは無理筋です。高齢に伴ってお務めができなくなったことを想定して、憲法には国事行為の臨時代行と摂政を置くことができると書き込まれているわけです。今回の天皇陛下の退位にあたって憲法が規定する制度をあえて採用しない合理的説明ができません。


 さらに、皇室典範の改正や特措法で退位を実現しようとしても、政府としての提案理由がありません。憲法は天皇の政治的関与を禁じていますので、天皇陛下のご意向を理由にできないのです。提案理由が明確でない法律によって退位を実現すれば、憲法上の瑕疵が生じ、同時に次の天皇の即位にも瑕疵が生じます。

 ご高齢によってご公務ができない事態には、国事行為の臨時代行で十分対応できます。皇室典範では、摂政は「天皇が、精神・身体の重患か重大な事故により、国事行為をみずからすることができないとき」に置くことになっていますが、臨時代行はそこまでいたっていない状態で可能となりますので、これが一番現実的だと思います。

 天皇の公的行為については、法律上規定がありません。その時々の天皇や宮内庁の解釈によって決められた結果、どんどん膨らんでいきました。それらすべてを全身全霊で果たせないと天皇たりえないとする天皇陛下の姿勢はご立派ですが、退位の理由とするには飛躍があります。ご無理が生じたのであれば、まずは公的行為の整理縮小か、他の皇族に肩代わりしていただくことを検討するのが順序ではないでしょうか。

 天皇陛下のご意向に反することになるかもしれませんが、皇室制度の維持、存続、安定のために何が必要かという視点で考えなければなりません。対応を間違えると、2千年以上続いてきた日本の皇室や天皇をいただく制度の「終わりの始まり」をつくってしまうかもしれません。心苦しいですが、天皇陛下には、考え直されたらいかがでしょうか、と申し上げたいです。


2016.12.21


                         ◇ 



【プロフィル】八木秀次氏
 
やぎ・ひでつぐ 麗澤大教授。専門は憲法学。昭和37年まれ。早大法学部卒、同大学院修士課程修了。教育を通じて日本再生を目指す「日本教育再生機構」の理事長を務め、皇室制度にも造詣が深い。著書に「公教育再生」「明治憲法の思想」など。















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安倍首相の「危険な発想」 領土を武力で奪われた過去を無視するのか 関心は露との「共栄」?

2016-12-21 17:44:40 | 正論より
12月21日付     産経新聞【正論】より



安倍首相の「危険な発想」 領土を武力で奪われた過去を無視するのか 関心は露との「共栄」? 

北海道大学名誉教授・木村汎氏


http://www.sankei.com/column/news/161221/clm1612210004-n1.html



≪G7の「結束」を乱した日本≫


 安倍晋三首相の対露交渉に賭ける情熱は、半端ではない。ロシアのプーチン大統領との間で16回もの首脳会談を行った。2014年以来、先進7カ国(G7)は、ロシアに制裁を科している。北方四島を軍事占拠されている日本は、最も厳しい制裁をロシアに加えるべき筋合いだろう。ところが日本は、事実上“制裁破り”さえしている。


 G7による制裁は、ロシア高官たちの海外資産を凍結するばかりか、彼らのG7諸国への渡航を禁じている筈(はず)だ。にもかかわらず、ロシア安全保障会議書記、上下両院議長、第1副首相、「ロスネフチ」社長らが大手を振って来日、時には首相に面会さえしている。

 G7諸国の首脳たちはロシア訪問を手控えている。ところが、安倍首相は、ソチ五輪開会式やウラジオストクでの東方経済フォーラムへ気軽に足を運ぶ。このような態度を見兼ねて、オバマ米大統領は首相にプーチン大統領を日本へ招くことだけは慎むようにとの苦言を呈した。


 やむなく首相が思いついたのは、米国の大統領選が終了し、任期満了前のオバマ氏が「レームダック化」した今年12月に、ロシア大統領を招待するというスケジュールだった。このような苦肉の策の結果、ロシア大統領のG7メンバー国への訪問が実現した。しかもそれはG7議長国の重責をになうはずの日本だった。





 ≪首相が情熱注ぐ平和条約締結≫


 首相は一体なぜそこまでして、ロシアとの平和条約締結に情熱を注ぐのか。


 1つには安倍政権は「地球儀を俯瞰(ふかん)する外交」という素晴らしいキャッチフレーズを掲げているにもかかわらず、近隣アジア諸国との関係は疎遠状態のままにとどまっている事情がある。習近平国家主席下の中国、朴槿恵大統領下の韓国との間で首脳間交流は停滞したままで、北朝鮮の拉致問題解決の目途も立っていない。


 2つは岸-安倍家の遺訓だ。祖父・岸信介氏は、憲法改正とソ連との平和条約締結の2つを悲願として掲げつつも、自らは実現しえなかった。父・晋太郎氏は、がんの病をおしてモスクワを訪問。ゴルバチョフ大統領に対ソ交渉を打開するための「8項目提案」を手渡した。そのとき、車椅子に乗りながら日ソ関係打開に賭ける父の執念を見ていたのが、晋三氏に他ならなかった。


 3つ目には安倍首相には北方領土から強制的に引き揚げさせられた日本人元島民に対する共感がある。彼ら約1万7千人の過半数が既に他界し、残っている者も平均年齢81歳と高齢化している。ペルーでプーチン大統領から冷水を浴びせかけられて以来、安倍首相は元島民と頻繁に会い、彼らの訴えをロシア大統領に伝達することにとりわけ熱心になった。


 以上、3つの事情は、すべて安倍首相が平和条約締結に傾ける熱意の原動力になっている。このことを認めた上で、私個人の重大な観察を記そう。あえて大胆に述べると、安倍首相にとって北方領土返還にたいする関心は、二の次のように見受けられる。同首相の主要関心は、島の返還よりも平和条約の締結なのである。


 さらにいうならば、隣り合う日本とロシアの共存共栄なのである。このような大胆な仮説を立てさせたのは12月16日、プーチン大統領との共同記者会見中の安倍首相の態度や言辞だった。





 ≪過去の決着なしに友好はない≫


 首相は一気に流れるような名調子で述べた。日本の政治家はあらかじめ官僚が準備したペーパーを読む。ところが安倍首相の様子は違った。

 このとき首相が口にしたことこそ首相の本音であり、おそらく彼が何度もプーチン大統領との2人だけの会合でこれまで繰り返し語った中身そのものではなかったか。


 私にとりもっと大事なのは、その驚くべき発想だった。首相は述べた。「過去にばかりとらわれるのではなく、北方四島の未来像を描き、未来志向の発想が必要だ。この新たなアプローチに基づき、云々(うんぬん)」(太字、木村)。さらに言葉を継いで、講道館柔道の創始者・嘉納治五郎の「自他共栄」の言葉も引いた。

 要約すれば〈過去よりも未来が大事〉。つまり過去のいざこざ、すなわち北方領土問題を横において、四島での日露共存共栄を図ることが肝要である。これこそが、安倍首相の「新しいアプローチ」の骨子なのではないか。


 首相の右の発言は一見、大衆受けするように聞こえるものの、危険な発想である。なぜならば、一般的にいって人間であれ、国家の関係であれ、好むと好まざるとにかかわらず、過去の上に立って現在や未来がはじめて築かれるからである。

 日露関係に関していえば、ソ連が固有の領土を武力で奪った過去を納得ゆく形で決着させないでいくら未来を構築しようと欲しても、両国は決して真の友好関係へと発展しえないのだ。(北海道大学名誉教授・木村汎 きむら ひろし)










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ロシアとの領土交渉、これが日本「完敗」の背景だ

2016-12-20 12:01:34 | 正論より
12月20日付    産経新聞【正論】より


ロシアとの領土交渉、これが日本「完敗」の背景だ 新潟県立大学教授・袴田茂樹氏


http://www.sankei.com/column/news/161220/clm1612200007-n1.html



 12月15日には、欧州連合(EU)がシリア情勢に関連して対露非難声明を採択し、ウクライナ問題以来の対露経済制裁を来年7月まで半年延長することで合意した。またオバマ米大統領は、露によるサイバー攻撃への報復意思を表明した。この日、安倍晋三首相はプーチン露大統領を「クリミア併合」以来、先進7カ国(G7)諸国としては初めて-しかもG7議長国として-公式的に招き、「ウラジーミル、君」と一方的に親密関係を演出し、欧米と日本の対露姿勢の差を浮き彫りにした。




≪明らかに後退した平和条約≫


 首脳会談の日本側の主たる目的は、日露の領土交渉を進展させること、そのための経済協力の具体化だった。結果は領土交渉の進展はゼロ、露が望む経済協力では8項目提案など政府、民間合わせて82件の成果文書を交わした。英紙フィナンシャル・タイムズも認めるように、露側の完勝である。

 露が1990年代に日本に求めた北方四島での共同経済活動が、平和条約締結の前提の如(ごと)き合意もなされた。しかし露側は、共同経済活動は首相の言う「特別な制度」下でなく、露の法律下でという立場を譲っておらず、合意の実施は困難で、新たなハードルを設けたも同然だ。さらにプーチン氏は日米安保条約への懸念も新たに表明した。平和条約交渉は一歩前進どころか、明らかに後退した。


 ただ、このことで野党は「領土交渉失敗」として安倍首相を非難できるか。安倍氏は、北方領土問題すなわち主権侵害問題を解決して平和条約を締結するために並々ならぬ情熱を傾けているが、この熱意自体は高く評価すべきだ。近年野党が政権についたときも、この問題に安倍氏ほど熱意をもって努力した政治家はいない。野党政治家の多くは、日本の国家主権や安全保障の問題に真剣な関心を向けていない。観念的な安保法制・憲法論議や沖縄米軍基地問題への対応が、そのことを示している。





≪情緒的で現実認識を欠いた≫


 では、今回の日本側「完敗」の背景は何か。最大の原因は、日本のメディアや多くのロシア専門家、政治家たちが、プーチンを含む露指導部の国家主権というものに対する厳しい論理と心理を-さらに広く国際社会における主権問題の厳しい本質を-リアルに認識していないことにある。

 換言すれば、「露は日本を必要としており、露側の要望に従って経済協力を進展させ、日本側の善意と信頼を示せば、また元島民の気持ちを伝えれば、プーチン氏も小さな島の3つ4つは、少なくとも面積僅か7%の色丹島、歯舞群島は譲歩する」と、ナイーブかつ楽天的に考えたことだ。つまり、わが国の対露政策はリアルな現実認識を欠いた性善説に基づく「お人よし」的で情緒的なものだったのである。これに対し、露側ははるかに冷徹かつ強(したた)かで、交渉術は日本側より数段上であった。


 ではなぜ安倍氏は、甘いロシア認識に傾いたのか。彼は日本の政治家の中では、国家主権の問題が戦争と同次元の厳しい事柄だということを最もよく理解していたリアリストのはずだ。その理由は恐らく、官邸やその周辺の政治家さらに経済省庁の関係者たちの大部分が、国家主権問題やプーチン氏に甘い認識を持っていたためだろう。プーチン氏は大変信頼できると公言する元首相もいる。それ故に平和条約締結後日本に色丹島、歯舞群島を引き渡すと合意した1956年の日ソ共同宣言を重視する、露側に好都合な政略に乗ったのではないか。




≪プーチン氏は豹変していない≫


 プーチン氏は2005年9月以後、「四島は第二次世界大戦の結果露領になり、国際法的にも認められている」との強硬姿勢を貫いている。それ以前は彼も1993年の「四島の帰属問題(〈日本への帰属〉ではなく中立的表現)を解決して平和条約を締結する」と合意した東京宣言を、つまり未解決の領土問題の存在を、認めていた。しかし、2005年に前言を翻した。ウクライナ問題を見ても、彼を本当に信頼できるのか。


 12年3月にプーチン氏は「ヒキワケ」発言をして日本側の期待値を高めた。しかし、それを大きく報じたわが国のメディアは、彼が同時に述べた「56年宣言には、2島の引き渡し後両島の主権がどちらの国のものになるか書かれていない」という、驚くべき強硬発言を報じなかった。これは領土問題の存在を否定する論に繋(つな)がる。その後も、プーチン氏はこの強硬論を幾度も繰り返したが、わが国のメディアも専門家も無視した。つまり、プーチン氏は最近強硬姿勢に豹変(ひょうへん)したのでも、親露的なトランプ氏の米大統領選当選が彼の対日姿勢を強硬化したのでもない。


 今後の対露政策だが、当然、東京宣言が「四島一括返還」の原理論ではないことをしっかり説いて認めさせ、G7諸国との関係も調整しながら、粘り強く領土交渉と経済協力を並行的に進めるべきである。領土交渉を脇に置いた経済協力だけの「前のめり」はやめるべきだ。それで困るのは日本側ではない。(新潟県立大学教授・袴田茂樹 はかまだしげき)












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奄美・石垣・宮古など日本の安保に重要離島の「防人」配備を急げ

2016-12-16 17:16:22 | 正論より
12月15日付    産経新聞【正論】より



奄美・石垣・宮古など日本の安保に重要離島の「防人」配備を急げ 東海大学教授・山田吉彦氏


http://www.sankei.com/column/news/161216/clm1612160004-n1.html



≪海と空で加速する中国の進出≫


 今年、中国の南シナ海での人工島の建設が国際的な問題となり注目を集めたが、東シナ海への進出も海と空の両面から加速しており、危機的な状況になっている。

 8月、尖閣諸島周辺海域に約300隻の中国漁船団が現れ、同時に15隻の中国公船が接続水域に侵入した。また、上空でも中国軍の戦闘機による領空への接近が繰り返されている。

 日本政府は東シナ海での偶発的な衝突を避けるために、中国と「海空連絡メカニズム」の早期運用開始に向けた議論を急ぐことで一致した。しかし、中国との協議にどれだけの意味があるかは、甚だ疑問である。



 東シナ海ガス田では、日中共同開発を目指し、一方的な開発は行わないとしたが、中国はその合意を「見解の相違」だとし、単独で軍事転用も可能なプラットホームを16基も設置している。

 12月10日には、沖縄本島と宮古島間の上空を中国の戦闘機などが通過したため、航空自衛隊の戦闘機が緊急発進(スクランブル)を実施した。平成26年度に航空自衛隊が行ったスクランブルの回数は943回に達する。27年度は873回だったが、中国機に対しての発進は571回と過去最高で、28年度も9月末時点で計594回。そのうち約70%が中国機に対するものである。


 また海洋進出においても、尖閣諸島周辺の日本の領海内に12月11日、中国海警局の警備船3隻が侵入し、今年で35回目となった。中国の東シナ海への進出は海と空が一体となって進められており、南シナ海では陸軍も加わった離島奪取の訓練が展開されているのである。





≪難しい「非武装漁民」への対処≫


 わが国でもようやく「島を守る」総合的な訓練が開始された。11月に奄美諸島の江仁屋離島において海上保安庁、警察、海上自衛隊が連携して、武装漁民による離島への不法上陸を想定した対処訓練が実施された。

 まず、離島に接近する武装漁船に海保が対処し、海保の規制をかいくぐり上陸した漁民の捕捉を警察が試みる。最後は武器を使い始めた漁民に対して、治安出動の発令を受けた自衛隊が制圧する-という流れである。


 しかし、この訓練が有効に機能するのは、あくまでも「武装漁民」が押し寄せた場合においてである。実際に五島列島や小笠原諸島に現れ、沿岸住民に脅威を与えているのは「非武装の漁民」だ。現実的な問題は、非武装の漁民が押し寄せて上陸した場合への対応だが、多くの離島では住民の高齢化が進み、屈強な漁民が上陸すれば、彼らが火器を持たなくとも島の占拠はたやすいだろう。


 現行法では、非武装漁民の不法上陸に対処するのは、海保と警察の任務である。しかし仮に100隻の漁船に乗った1千人が離島への上陸を目指した場合、海保や警察では人員や装備が足りずに対応不能となるだろう。陸上自衛隊については、現在の法解釈では行動が制約されている。


 このため相手が非武装であっても、国民の生活に危害を加える動きを阻止できる迅速な治安出動が必要となる。離島への侵略を防ぐためには警備力、防衛力を持つこととあわせ、島民が安定して暮らす社会作りも重要である。

 3月に陸上自衛隊の与那国沿岸監視隊の駐屯地が開設され、離島防衛施設が配備された。中国が海と空からしのび寄る現状において、日本最西端の与那国島でレーダーなどを用いた情報収集活動をすることの意味は大きい。中国の東シナ海での軍事動向を把握するためにも重要である。





≪国土脅かす既存制度を見直せ≫


 同監視隊は、国境警備の任務のひとつである地域住民の生活の安定にも寄与している。与那国島では、自衛隊員とその家族が学校教育や地域活動に不可欠な存在となり、国境の島の社会を活性化する役割を担っている。まさに「現代の防人」といえる。今後、奄美大島や石垣島、宮古島など、日本の安全保障上、重要な離島での配備が急がれる。


 半面、現行制度の中には、島の人々の生活を脅かすものも存在する。例えば、2000年に発効した日中漁業協定に定められた暫定措置水域だ。暫定措置水域では日中両国の漁獲目標が定められ、それぞれの国が自国の漁船を管理することになっている。


 しかしこの協定によって、1万隻を超える中国漁船が東シナ海でわが物顔で乱獲を続けるため、沖縄や五島列島の漁師らは、中国漁船に圧迫されて漁場の放棄を余儀なくされている。

 また、1997年に小渕恵三外相名で中国大使に出された書簡では、暫定措置対象外の北緯27度以南の尖閣諸島水域においても、中国漁船の不法操業を取り締まらないとしている。これらの制度が沿岸漁民の生活や、国土を脅かしているのである。

 中国の海洋の脅威に対応するため、早急な制度の見直しが不可欠である。(東海大学教授・山田吉彦 やまだよしひこ)













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東西両端の半島に起こった「さざ波」が「世界大乱」につながる予感

2016-12-13 10:27:46 | 正論より
12月13日付    産経新聞【正論】より


東西両端の半島に起こった「さざ波」が「世界大乱」につながる予感 京都大学名誉教授・中西輝政氏


http://www.sankei.com/column/news/161213/clm1612130007-n1.html



 2016年の世界はいくつもの「かつてない大変動」を重ねた年として暮れようとしている。アメリカの大統領選挙でのトランプ氏の勝利やイギリスの国民投票における欧州連合(EU)離脱の選択は人々を驚かせたが、その余波といえる潮流はさらに多くの波及を伴って来年へと持ち越されることになり、世界と日本を一層揺さぶることになるだろう。




≪東西で起きた秩序の地殻変動≫


 現に東西2つの半島国家で起きた出来事は、ともに世界秩序の地殻変動を明瞭に示すものである。

 1つは12月4日のイタリアでの国民投票の結果である。争点だった憲法改正はイタリア経済の一層の「グローバル化」推進のための構造改革を進めやすくするため、議会制度に手をつけようとするものであったが、大差で否決されたため、今や「古い(グローバリズムの)改革派」とされた若いレンツィ首相は辞表を提出した。

 他方、共通通貨ユーロからのイタリアの脱退を訴えるポピュリズム政党「五つ星運動」が勢いを増しているが、この結果は直ちに2つの危機をもたらすだろう。


 1つはかねて膨大な不良債権の存在が指摘されていたイタリアの銀行危機が浮上し、欧州さらにはグローバルな金融システムのリスクにつながる懸念であり、もう1つはこの結果が来年予定されているフランスの大統領選やドイツの国政選挙に及ぼす影響である。ユーラシア大陸の西端に生じた今回の波動が全欧州あるいは世界に波及することになるかもしれない。


 もう1つ別の「半島危機」は言うまでもなく韓国のいわゆる“朴槿恵危機”である。今の大きな流れは野党の一層の勢力増大と韓国政治の“再左傾化”であろう。その結果、半島の安全保障やこの間の日米韓の連携強化の流れに大きく水を差す、あるいは頓挫させかねない事態ともなりうる。そうなれば脅威を増す北朝鮮情勢の深刻化が再び懸念されるとともに、昨年12月の「日韓慰安婦合意」が存在意義を失うことになる。

 わずか1年前、「安保問題をより重視し日米韓の連携強化のため」との理由で、慰安婦問題をめぐる従来の安倍晋三政権の主張を大幅に譲歩してまで結んだ「あの日韓合意は一体、何のためだったのか」ということになる。





≪歴史や領土で安易に妥協するな≫


 こういうことになるから、本来100年(ないしそれ以上の)単位で考え対処しなければならない歴史問題を、猫の目のように変わる政策問題や政局的考慮から、いじくってはならないのである。


 この点で、間近に控えたプーチン露大統領訪日の際の歴史問題としての北方領土問題交渉や、年末に予定される首相の真珠湾訪問で日本側が国家としての原則的な姿勢をとることの大切さについて、特に注意を喚起しておきたい。

 いずれにせよ、東西2つの半島国家の激震は、より大きな世界秩序の変動の余波、または予兆としてみる視点も失ってはならないだろう。イタリア半島(あるいはバルカン半島)に発する政治変動は、しばしばアルプスやドナウ川を越えて中欧すなわちドイツを経て東ヨーロッパ諸国にまで波及する(ヒトラーもビスマルクもイタリアからの波及によって浮上し、全欧州の覇権に手を伸ばした)。

 現在、既に生じているEUの大きな揺らぎの中で、今やロシアの影が欧州大陸により大きく及んできたが、アメリカのトランプ次期政権が言われているように「米露接近」という誤った外交戦略をとれば、欧州でのロシアの優位が一層際立ち、EUだけでなく北大西洋条約機構(NATO)の結束にも深刻な影響を及ぼすだろう。




≪せり出すランドパワーの脅威≫


 他方、韓国を襲っている今回の激震は、いずれにしても中国の朝鮮半島への影響力をより大きなものとしよう。すでにトランプ氏による環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)からの脱退宣言によって、アジアの貿易圏をめぐる主導権だけではなく安保・国際政治においても中国の影が大きく東アジアに及ぼされようとしている。


 半島の変動は、古くマッキンダー以来の地政学の理論を引くまでもなく、しばしばランドパワーつまり中露というユーラシア大陸の中心部を押さえる勢力が外へとせり出すきっかけをもたらすことになる。それゆえ、ユーラシア大陸の東西両端の半島に起こる「さざ波」が“世界大乱”的な、一層のグローバルな秩序変動へとつながってくるのである。

 このユーラシア・ランドパワーの「うごめき」に対処しうるはずの海洋(シー)パワー・アメリカの行方が気になるところだが、トランプ次期政権の関係者から聞こえてくるのは、「アメリカ(の安全が)第一」の発想から唱えられる中東での「対(過激)イスラムの戦い」のための大規模な軍事介入の話ばかりである。それは必ず、すでに進行している「世界の多極化」の流れを加速させることになる。

 21世紀の必然ともいえるこの世界秩序の多極化の中で、2017年の日本はいよいよ正念場を迎えることになろう。(京都大学名誉教授・中西輝政 なかにしてるまさ)








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