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北朝鮮は「中華帝国の一部」 中国の目的は制裁を緩和して生存を保証することだ

2017-05-30 21:14:24 | 正論より
5月30日付     産経新聞【正論】より



北朝鮮は「中華帝国の一部」 中国の目的は制裁を緩和して生存を保証することだ 

東京国際大学教授・村井友秀氏


http://www.sankei.com/column/news/170530/clm1705300008-n1.html


 北朝鮮の貿易の9割を占める中国は、北朝鮮政権の生殺与奪の権を握っている。国連決議を無視する北朝鮮を中国はどうしようとしているのか。




≪国連決議は守られているのか≫


 5月3日、朝鮮中央通信は、「われわれは米国の侵略と脅威から祖国と人民を死守するために核を保有した。朝中関係は重要であるが、生命と同然の核と引き換えてまで、哀願することはない」と論評した。これに対して、中国の『環球時報』は「罵詈(ばり)雑言を投げ合う論争を続けるつもりはない」と述べている。

 中国の主張は、国連の制裁決議に則(のっと)って北朝鮮を制裁しているが、北朝鮮が中国の言うことを聞かないというものである。「中国が米国に追従して北朝鮮に圧力をかけているが、北朝鮮は決して外国の圧力に屈しない」という北朝鮮の主張は、中国の主張の援護射撃であり、北朝鮮は中国の手の中で動いている。

 中国中央テレビは、報道の自由がない北朝鮮から中国の制裁によって平壌ではガソリンが不足していると放送した。中国は国連決議を守って北朝鮮を制裁したと言っているが、実際には地方政府の辺境貿易や民間企業を通じて制裁に抜け道をつくり、さまざまな条件を付けて制裁を骨抜きにした。


 他方、北朝鮮がミサイル発射や核実験をすればするほど国際社会は中国に北朝鮮の説得を依存するようになる。北朝鮮の暴走は国際社会で中国の立場を強めている。米国も中国に配慮して台湾総統との会談をとりやめ、南シナ海で中国を牽制(けんせい)する「航行の自由作戦」を一時中断した。





≪「韓半島で優越的地位を固める」≫


 そもそも中国にとって北朝鮮とは何なのか。

 20世紀末から中国では、朝鮮半島の北部は古代から中国の一部であったという研究が盛んに発表されるようになった。2千年前の漢の時代、朝鮮半島北部は漢王朝の支配下にあり、漢の行政府が設置されていた(漢四郡)。漢王朝が崩壊すると、中国東北地方から朝鮮半島北部にかけて高句麗王朝が成立した。その後、朝鮮半島南部に朝鮮民族の王朝である新羅と百済が成立し、高句麗、新羅、百済の三国時代を経て、7世紀になると新羅が朝鮮半島を統一した。

 現代の中国でも、中国遼寧省にある高句麗山城の碑石には「高句麗は中華民族が建てた国であり、高句麗民族は中華民族の大家族の一員だった」と刻まれている。また、大学の教科書『中國古代史』には、「高句麗は東北地区の少数民族政権であり、中国の領域であると見なされていた」と記されている。


 このような中国の主張に対して韓国は反発し、『東亜日報』は社説で「中国は、北朝鮮が崩壊した場合、朝鮮半島北部に対する歴史的縁故を主張することで、韓国や米国の侵入を阻止し、韓半島における優越的地位を固める考えである」(2007年1月27日)と批判した。

 中国の領土は次のように説明されることがある。「一度、中華文明の名の下に獲得した領土は、永久に中国のものでなければならず、失われた場合は機会を見つけて必ず回復しなければならない」(フランシス・ワトソン『中国の辺境』)





≪制裁参加の目的は生存の保証≫


 次に中朝関係を「最大の損害を最小にする」という国際関係理論から検討する。朝鮮半島には統一と南北分裂のままという2つの道がある。中国にとってそれぞれの道の最悪のケースは、統一の場合は、統一した強い反中朝鮮の誕生であり、南北分裂の場合は、隣に南北分裂した弱い反中朝鮮が存在することである。南北分裂した弱い反中朝鮮よりも統一した強い反中朝鮮の方が中国の強敵になる可能性が高い。

 また、統一した強い朝鮮よりも南北分裂した弱い朝鮮の方が中国は影響力を及ぼしやすい。したがって、南北分裂した弱い朝鮮の方が中国にとって望ましいことになる。南北分裂を維持するためには北朝鮮を守らなければならない。


 ところで、中朝は朝鮮戦争で共に血を流し米帝国主義と戦った「血で結ばれた戦友」と言われてきた。しかし、今の中朝両国で「血で結ばれた戦友」を信じている人はほとんどいないだろう。それでも中朝間には「どちらか一方が他国に攻撃された場合、もう一方は自動的に他方を助ける」という「参戦条項」を含む「中朝友好協力相互援助条約」がある。

 中国が北朝鮮を守るという意味は、金正恩政権を守るという意味ではない。金正恩政権が北朝鮮を守る障害になると判断すれば、中国は別の政権にすげ替えようとするだろう。「参戦条項」は中国が北朝鮮に介入する格好の口実になり得る。金正恩政権の最大の脅威は中国であろう。

 中国にとって北朝鮮は失うことが許されない中華帝国の一部であり、中国が制裁に参加する目的は、日米が主導する制裁を緩和して北朝鮮の生存を保証することである。(東京国際大学教授・村井友秀 むらいともひで)













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【東京MXニュース女子問題】

2017-05-28 20:29:41 | 日本
【東京MXニュース女子問題】


我那覇真子さんら東京で集会 
「基地移設反対派とのトラブルに巻き込まれた依田啓示さんを守る」 依田さん「検察の調べは反対派寄り」「あの店に行くな、と嫌がらせが…」


http://www.sankei.com/premium/news/170528/prm1705280029-n1.html


「琉球新報・沖縄タイムスを正す県民・国民の会」代表の我那覇真子(がなは・まさこ)さん(27)らが27日、東京都北区で集会を開き、高江ヘリパッド建設反対派とトラブルになった依田啓示さん(43)が「検察官は基地反対派寄りで、不公正な取り調べを受けた」などと述べた。会は今後、依田さんを支援する運動を続けることを確認した。また、評論家の西村幸祐氏や、慰安婦が性奴隷ではないことを国連に訴える運動などを行っているなでしこジャパン代表の山本優美子さんらが登壇し、「政府は反証を重ねている」「河野談話を上書きし、無力化することが大切」などと語った。



 依田さんは平成28年9月17日昼、沖縄県東村高江で、県道を封鎖し、検問していた高江ヘリパッド建設反対派5人の男女と口論になり、そのうちの2人を殴ったとして、暴行容疑などで沖縄県警名護署や那覇地検の取り調べを受けた(刑事処分はまだ出ていない)。

 依田さんの事件は、警察が事件を発表していない段階で、地元紙の沖縄タイムスが反対派の言い分だけをもとに報じる異例の顛末(てんまつ)をたどっている。依田さんは名護署と那覇地検の任意の取り調べを受けたが、起訴、不起訴の判断はまだ出ていない。


パネルディスカッションで、依田さんは「名護署では『先に手を出してきたのはあちらだ。自分も被害届を出したい』と言ったが、『双方で被疑者と被害者の立場が入り乱れてしまうので、被害届は受け取れない』と言われた」と話し、「ひどかったのは検察。検事は僕に会うなり、『起訴するからね』と言い、かなり誘導的な取り調べを受けた」と内幕を語った。


 この検事は地元紙に連載を持っており、和田正宗参院議員(42)が沖縄県名護市辺野古を訪れた際、同行した男性が基地移設反対派に暴行された事件に関しても、和田参院議員側に何度も「(被疑者は)80代のおばあちゃんなんだから告訴を取り下げて」と電話をしていたことが明らかになっている。この検事は今年3月に辞職した。



 依田さんは「当時、活動家が千人近く高江に集結し、片っ端から車を止めて県道を封鎖していた。僕の事件が起きるまでにも地元住民とのトラブルが度々あり、一触即発の状態だった」と述べた。事件後、依田さんは基地移設反対派のツイッターに「テロリストの店には行くな」などと書き込まれるなど、執拗な嫌がらせを受けた。


この事件では、高江ヘリパッド反対派の道路封鎖などの威力業務妨害罪になりかねない行為を問題にせず、依田さんだけを事件化するのは不公平だ、との声が一部で起きており、集会では、我那覇さんらが今後とも依田さんを支援していくことを確認した。

 ビデオメッセージを寄せた沖縄教育オンブズマン協会の手登根安則(てどこん・やすのり)会長は、沖縄県名護市辺野古の基地移設反対派のリーダー格の男性が仲間に「(基地に資材を搬入する)トラックが道交法違反だ、と警察に告発し、警察官が反則切符を切らなかったら、その警察官を撮影して」などと依頼する声がツイキャスに流れた際の動画を公開した。(WEB編集チーム)

2017.5.28








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韓国「日本海に『東海』の併記を」 国際総会で主張…日本はもっと危機意識を

2017-05-26 11:29:47 | 日本
【竹島を考える】

韓国「日本海に『東海』の併記を」 国際総会で主張…日本はもっと危機意識を 下條正男・拓殖大教授


http://www.sankei.com/west/news/171216/wst1712160003-n1.html


 北朝鮮による核・ミサイル実験で緊張が続く中、この4月24日から28日まで、5年に一度の国際水路機関(IHO)総会がモナコで開かれた。今回も、日本海の呼称をめぐって日韓の確執があった。韓国政府は1992年の第6回国連地名標準化会議で、「日本海の呼称が普及したのは日本の拡張主義や植民地支配の結果」などと主張。1997年にはIHOでも、「『大洋と海の境界』が定める日本海の呼称に『東海』を併記すべきだ」と主張していた。



◇IHO総会に向けて戦略練る韓国


 以来、韓国側は5年ごとのIHO総会をめどに戦略を練ってきた。その成果の中には、2014年の米国バージニア州での東海併記法の成立も含まれている。

 韓国の外交部によると、今回の総会には外交部、海洋水産部、国防部(海軍)、国立海洋調査委員会、東北アジア歴史財団などの専門家30名ほどで構成された代表団を派遣し、万全の準備をして臨んだという。

 事実、会場には「東海」関連のブースが設置され、そこにモナコのアルベロ2世王子とペリオウェイ総会議長らを招くなど、韓国側は戦略的な広報活動を展開した。

 これに対し、日本の外務省と海上保安庁は、「『日本海』は国際的に確立された唯一の呼称であるという確固たる原則」により、「根拠のない韓国の主張に対し、IHOの場などで正しい歴史的事実に基づき反論する」との立場をとってきた。


 そのためか、総会前日の日本の日刊紙(電子版)には、「毅然(きぜん)とした態度で交渉に臨め」とする自民党幹部のインタビュー記事が載っていた。それによると、日本政府からは外務省の相星孝一・地球規模課題審議官と海上保安庁の仙石新・海洋情報部長らが派遣され、自民党幹部は「いずれも局長級で、『日本がいかに、この問題を重視しているのか』を国際的に知らしめるチャンス」と強調していた。しかし、それは手前みそ的解釈でしかない。




◇20年前の振り出しに戻された日本


 現に、今回の総会を機に日本政府は最終的な決断を迫られることになった。韓国側の報道によると、今後は日本と韓国の2国間で対話を進め、3年後の2020年にその結果を報告することになったというのだ。


 日本側にとっては、20年前の振り出しに戻されたのにも等しい。この間の日本政府の対応は、何の意味もなさなかったということである。その事実は、外務省や海上保安庁の日本海呼称問題に関するホームページを閲覧してみれば察しがつく。

 日本では、「世界が認める日本海」として、世界の古地図では日本海と表記したものが多いとしてきた。


 だが韓国側では、世界の古地図は、日本海よりも韓国海や朝鮮海、東海と表記しているものが多いとするだけでなく、東海の表記は2千年前から使われていたとして、日本海呼称問題を「歴史問題」と捉えてきた。

 そこで、韓国側が執拗(しつよう)な宣伝工作を行った結果、2002年に2%だった東海と日本海の併記は、2009年には28%になったという。


 この状況は竹島問題や尖閣諸島問題、慰安婦問題などとも同じ構造を持っている。歴史的根拠がないにもかかわらず、中韓が歴史問題として対日攻勢を掛けると、それがいつの間にか「歴史問題」に変質し、中韓による日本批判が常態化してしまうというものだ。




◇竹島問題に深く関わる日本海呼称問題


 日本海呼称問題は、竹島問題とも深く関わっている。以前にも触れたので重複するが、それは次のような理屈から成り立っている。


 韓国側によると、竹島は竹島ではなく独島である。その独島が日本海の中にあるのは、日本の領海の中にあるようで不適切だ。それに国際水路局(IHOの前身に当たる国際組織)で日本海の呼称が定められたのは、1929年である。その時の韓国は、1910年から始まった日本の統治下にあった。このため、韓国側では2千年前から使っていた東海の呼称を主張することができなかった。これは過去の歴史を清算して、正しい歴史に戻さなければならない。




◇韓国の積極関与で成立した米州の東海併記法


 このもっともらしい理屈は、韓国が1992年に国連へ加盟すると同時に、声高に主張されるようになった。韓国政府は、国連の地名標準化委員会などを舞台に、日本海呼称の不当性を強調することになるのである。

 さらに、国策の研究機関である「東北アジア歴史財団」と「東海学会」などが積極的に関与する中で、米国のバージニア州では2014年、公立学校の教科書で日本海と表記する時は、東海を併記すべきだとする「東海併記法」を成立させている。


 その際、韓国系米国人による州議会に対するロビー活動が行われたが、今回も米国政府に対して東海併記を求める請願がなされ、10万人以上が署名したとされる。

 この韓国系米国人に対して、日本側が「『日本海』は国際的に確立された唯一の呼称」と言っても、説得力はない。現に米国ではテキストが作られ、その中では2千年前から使われていたとするだけでなく、「朝鮮海」「韓国海」「オリエンタル海」などと表記された西洋の古地図を列挙して、日本海を東海とする根拠としている。




◇韓国の歴史捏造(ねつぞう)に反論しなかった日本


 しかし歴史的事実として、韓国側が主張する「東海」は、朝鮮半島の東海岸の沿海部を指す呼称で、現在の日本海とは重複しない。それに2千年前から使用されていたとする東海は、現在の「渤海(ぼっかい)湾」及び「黄海」のことで、日本海とは関係がない。それを、あたかも日本海のことのように宣伝してきたのである。


 だが、「根拠のない韓国の主張に対し、IHOの場などで正しい歴史的事実に基づき反論する」とした日本政府は、韓国側が歴史を捏造した事実について、反論することもなかった。

 そのため、韓国の民間組織「VANK」では、青少年をサイバー外交官とし、英国の言論社やフランスのルモンド紙などに攻勢をかけ、東海併記を実現している。

 これに対して、日本政府が「『日本海』は国際的に確立された唯一の呼称」などと主張すれば、韓国側には挑発として映るだけで、逆効果である。




◇日本海呼称問題は喫緊の外交課題だ


 このゴールデンウイーク中、資料収集を兼ねて韓国に滞在した。現地は大統領選挙の最中で、国民は北朝鮮によるミサイルや核開発にはほとんど関心がなかった。

 一方、日本では、北朝鮮問題を大きく報じて改憲の必要性を強調し、野党は共謀罪の成立阻止を叫んでいるが、現実に国家主権に繋がる竹島問題関連の日本海呼称問題には、ほとんど関心がないようである。


 しかし今回、国際水路機関の総会では、日本は歴史的根拠のない東海併記で韓国側と直接対峙(たいじ)することになった。それも20年以上も解決できなかった問題である。日本の、国家としての尊厳が冒されているというのに、日本には差し迫る危機に対しての管理能力がないのである。


 日本海呼称問題は、喫緊の外交課題である。韓国側は、この問題の解決のために北朝鮮やロシアを含めて検討したいとしており、今後はこの2国などと共謀して、対日攻勢に出てくるはずだ。


 これに対して、日本の国会では、改憲と共謀罪について観念論的な論議が続いている。日本の国会議員たちは“共謀”して日本をおとしめているのだ。「共謀罪」が成立すれば、最初に適用されるのは日本の国会議員たちであろう。

 処罰の対象になれば公民権が停止され、しばらくは国会には戻れなくなる。そうならないためにも、この日本海呼称問題を見事に解決してみてはどうだろうか。


2017.5.26













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安全保障避ける学術会議 冷戦期に孕んだ時代認識の欠陥の残滓だ 

2017-05-26 11:19:08 | 正論より
5月25日付     産経新聞【正論】より


安全保障避ける学術会議 冷戦期に孕んだ時代認識の欠陥の残滓だ 

東京大学客員教授・米本昌平氏


http://www.sankei.com/column/news/170526/clm1705260004-n1.html


 ≪冷戦の過酷さとは無縁だった国≫


 3月24日に日本学術会議は「軍事的安全保障研究に関する声明」をまとめ、軍事目的での科学研究を行わないという半世紀前の方針を再確認した。その直接の動機は、一昨年から防衛装備庁が「安全保障技術研究推進制度」を発足させたため、これに対する態度表明を迫られたからである。


 どんな国であれ大学が防衛省関係から研究費助成を受ければ、軍事機密や達成目標などで条件をのまなければならず、大学側は当然これに対する原則を明確にする必要が出てくる。だが、声明や学術会議報告「軍事的安全保障研究について」を読んでみると、日本のアカデミズムは安全保障の議論をするのに恐ろしく逃げ腰である。

 その理由の一つに、日本が20世紀後半の世界を決定づけた冷戦の過酷さを体感しないまま21世紀に抜け出た、唯一の先進国であることがある。冷戦とは米ソ両陣営が最悪時には7万発の核弾頭を備え、国内総生産(GDP)の5~10%を国防費に割いて核戦争の恐怖に耐えた時代であった。

 この未曽有の恐怖の時代を通して日本は「冷戦不感症」国家であったため、科学技術と軍事の関係を冷静かつ客観的には語りえない欠陥をもつようになった。この点について軍民両用(デュアルユース)技術を軸に論じておきたい。





 ≪表層的な日本の軍民併用技術論≫


 最も基本的なことは、米国の科学技術は1940年を境に一変してしまったことである。第二次大戦以前の米国では、大学は東部の法文系が主流だった。ところが40年に国家防衛研究委員会が置かれ、戦争中にこの委員会が通信技術、レーダー、航空機、核兵器などの戦時研究を組織し、理工系大学がその一部を受託して力を蓄えた。戦後間もなく冷戦が始まったため、米国は41年の真珠湾攻撃から91年のソ連崩壊まで50年戦争を戦ったことになる。


 そんな中、57年10月にソ連が人類初の人工衛星スプートニク1号を打ち上げた。米国は衝撃を受け、高度な科学技術研究を維持することが安全保障に直結すると確信し、翌年に国防高等研究計画局や航空宇宙局を新設する一方、理工系大学の大幅な拡張を促した。


 国防総省からの大規模な研究委託によって、マサチューセッツ工科大学(MIT)やスタンフォード大学などは急速に力をつけ、「研究大学」という特別の地位を獲得した。60年代末に大学紛争が起こると、軍からの委託研究は批判にさらされ、キャンパスの外に移されたが、これがベンチャー企業の先行形態となった。結局、冷戦の最大の受益者の一つは米国の理工系大学であった。


 冷戦後、米国の科学史の研究者は精力的に冷戦研究を行い、この時代の米国の科学技術は、核兵器の開発・小型化・配備体制の開発を最大のミッションとする「核兵器研究複合体」を形成していたと自己診断を下した。日本の議論は、この米国における科学技術史の研究成果を咀嚼(そしゃく)していない。

 90年代の米国は、科学技術を軍事から民生へ転換する「軍民転換」政策を採用した。この時、冷戦時代に開発されたコンピューター技術、インターネット、衛星利用測位システム(GPS)などが民間に開放され、巨大な情報産業が誕生した。この政策を正当化したのが「軍民併用技術」という概念であった。これと比べ、日本の軍民併用技術論は何と表層的でひ弱なものなのであろう。





 ≪米科学技術史の成果を踏まえよ≫


 かつて核戦争の危機は2度あったが、2度とも日本は重度の「冷戦不感症」を呈した。62年のキューバ危機に際し、ケネディ大統領は事態を説明するためフランス、西ドイツ、カナダに特使を派遣したが、池田勇人首相には親書で済ませた。核戦争が起こるとすれば大西洋を挟んだ撃ち合いになると考えられたからだ。この時、日本は親書の意味が読み取れないまま経済政策に邁進(まいしん)したのである。


 83年欧州のミサイル危機の時には、相互確証破壊を前提とする戦略核ミサイル体制は両陣営で完成していたから、核戦争になれば日本は全滅してしまうはずだった。だがこの時、日本で議論されたのは欧州の反核運動であった。

 冷戦時代、日本が核戦争の脅威を認知しようとしなかった理由はほぼ3つに集約される。第1に日本における核兵器の議論はヒロシマ・ナガサキで凍結されてしまい、その後に本格化する核兵器の大量配備の現実を視野に入れようとしなかったこと。第2に核戦争になれば全てが破壊されてしまうという虚無感。第3に東アジアには東西対決の緩衝地帯として中国共産党政権が存在し、日本がソ連との直接的な軍事対決にさらされることが少なかったことである。


 大学の研究と軍事研究との間に線引きが必要になった事態をもって右翼化と言ったり、戦前の日本と重ねる論法は、冷戦期に日本社会が孕(はら)んだ時代認識の欠陥の残滓(ざんし)でしかない。いやしくも日本学術会議である以上、最低限、米国の科学技術史の研究成果を踏まえた論を展開すべきだったのである。(東京大学客員教授・米本昌平 よねもとしょうへい)







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自らに〝時代遅れ〟の制約課す日本学術会議 軍事研究禁止は国を弱体化させる

2017-05-18 20:17:53 | 正論より
5月17日付     産経新聞【正論】より



自らに〝時代遅れ〟の制約課す日本学術会議 軍事研究禁止は国を弱体化させる 

平和安全保障研究所 理事長・西原正氏


http://www.sankei.com/column/news/170517/clm1705170007-n1.html


 日本学術会議は3月24日に「安全保障と学術に関する検討委員会」の幹事会が決定した「軍事的安全保障研究に関する声明」を出した。これは2015年度に防衛省防衛装備庁が設置した「安全保障技術研究推進制度」が、大学の研究者に研究費を出して研究成果を日本の防衛技術の向上に取り入れようとしたことに対し、同会議が軍事利用される恐れのある研究を規制するよう大学などに要請した反対声明であった。




 ≪日本学術会議の声明は時代遅れ≫


 日本学術会議は自然科学および人文社会科学の分野の研究者84万人を代表する機関で、1949年に設立された。これまで50年と67年に同様の声明を出しており、今年の声明はその延長線上にある。同会議の声明は憲法23条が「学問の自由」を保障しているにもかかわらず、それを否定し自らに時代遅れの制約を課している。

 もともと声明は、科学者は戦争協力をしないこと、および研究は政府から独立したものであるべきだという態度で出されたものである。50年の声明が「戦争を目的とする科学の研究には、今後絶対に従わない」とし、67年の声明が「軍事目的のための科学研究を行わない」としていた。


 しかし「軍事技術と民生技術は分けられない」「防衛目的の技術と攻撃目的の技術を分けて考えるべきだ」などのいわゆる「軍事研究」を部分的に容認する意見もあったため、声明は「大学等の研究機関における軍事的安全保障研究(中略)が、学問の自由及び学術の健全な発展と緊張関係にあることをここに確認し」とし、イデオロギー色を後退させている。そして「研究の適切性」をめぐっての「議論に資する視点と知見を提供すべく、今後も率先して検討を進めて行く」と結んでいる。


 ここでは日本学術会議が各大学や研究機関に軍事的安全保障研究に従事することを禁じているわけではない。しかし実際にはそうした研究に参画しないように研究機関や大学に強い要請をしたと見るべきだ。2015年度に58件あった大学からの応募件数が16年度には23件に減少したという。関西大学や法政大学は学内の倫理基準に照らして学内の研究者の応募を禁止することとし、これまで米国防総省や防衛省からの助成金を受けていた東京工大も同じ理由で当面禁止することに決めたという。





 ≪核を知らずに対抗できるのか≫


 古代ローマに「平和を欲するならば、戦争に備えよ」という格言がある。世界の大半の国は、この格言を表明することはないにしても、実際にはこれに沿った国家戦略を立てている。日本も憲法上の制約を課しながら、同様の国家戦略を立てている。日本の平和は、国際協調を重視する外交とともに、国防に備える自衛隊と「戦争の備えをしている」米国との同盟で保持されている。


 残念ながら、日本学術会議の有力メンバーは「すべての科学者が軍事目的の研究をしなければ、戦争は不可能である」との伝統的思考から抜け出せないでいる。


 日本は北朝鮮の核に対して核で対抗することはできないが、核の知識がなければそれへの対抗策を施すことはできない。サリンを大量に持つべきではないが、サリンの性質を知り、効果的な対策を練る研究は絶対に必要だ。サイバー攻撃から守るには、その仕組みを研究しなければならない。これらの研究の倫理性を疑うのは的外れである。

 大学の研究者の中には、自国の平和と安全を願い、防衛技術の向上に貢献したいとの意欲を持つ人がいる。日本学術会議の声明はそういう研究者の「学問の自由」を奪い、結果として日本の防衛の弱体化に貢献している。





 ≪非武装平和主義的思考の克服を≫


 防衛装備庁は15年度に3億円、16年度に6億円、そして今年度には大幅に増額して110億円の予算を組んだ。そのため、1件約3千万円で3年間の研究費だったのが、今年度からは1件当たり5年間で数億円から数十億円のものが新設されるという。


 ほとんどの技術が軍事技術にも民生技術にも使われる今日、こうした研究資金を使って主要国に負けない研究成果を出せるようにすべきである。日本学術会議は研究に対する政府の過度の介入を警戒するが、研究者によっては、研究の途中で政府の要望を入れて研究を修正したいと考える人もいるだろう。また政府としても何億円かの資金を投入する研究を研究者のみに任せておいて進捗(しんちょく)状況を見ないのは、適切な資金の使用方法とは思えない。


 防衛装備庁は研究成果を「原則として公開」としている。基礎研究であれば汎用(はんよう)性は高いわけで、できるだけ研究成果を公開することが望ましい。しかし防衛技術研究を全部公開するのでは日本の防衛力を強めることにならない。

 日本学術会議や研究機関が防衛省からの研究費に関して「研究の適切性」を議論するにあたって、非武装平和主義的思考を克服して、防衛技術の汎用性を国際的基準で検討することを望みたい。(平和安全保障研究所 理事長・西原正 にしはら まさし)







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「9条は日本を危険にさらす」と米紙が論評 2020年の「地殻変動」にどう備えるか

2017-05-17 13:46:26 | 日本
【湯浅博の世界読解】


「9条は日本を危険にさらす」と米紙が論評 2020年の「地殻変動」にどう備えるか


http://www.sankei.com/world/news/170517/wor1705170016-n1.html


安倍晋三首相による「2020年に新憲法施行を」との決意表明は、日本が島国から脱して海洋国家になる宣言のように聞こえた。2020年といえば東京五輪・パラリンピックの開かれる年であり、いや応なく1964年に開催された前回の東京五輪を思い起こさせるのだ。



 あの年の10月、中国は東京五輪のさなかに初の核実験を強行し、ソ連ではフルシチョフ首相が解任されるという国際政治の転換点であった。とりわけ、中国の「核実験成功」という知らせは、華やかな東京五輪をかき消す衝撃として世界を駆け巡った。

 その数カ月前、京都大学の高坂正堯助教授が雑誌論文で、「イギリスは海洋国家であったが、日本は島国であった」との修辞法で防衛強化の警鐘をならした。海を活用する英国と、海を背に閉じこもる日本を比較して海洋国家として自立するよう促した。


 中国の核実験は、日本が核を持った大陸国家と対峙(たいじ)することを意味した。その中国はいまや、地域覇権を目指して米国に挑戦し、東シナ海ではわが尖閣諸島の奪取を狙う。しかも、北朝鮮の核開発が、日本に対して時代錯誤の「専守防衛」から、攻撃力を含む現実的な「積極防衛」への転換を迫っている。


しかし、高坂の警告から半世紀が過ぎても、日本は彼が定義した海洋国家に脱皮することができない。野党はいうに及ばず、自民党内ですら「積極防衛」を可能にする憲法9条改正への動きが鈍い。せいぜい緊急事態条項の挿入を掲げて9条の“本丸”に攻め込むことを避けてきた。



 安倍首相が目標とする「2020年」は、安全保障上も微妙な年にあたる。この時期は、北が米国に届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)と核の小型化が完成すると見込まれる。1964年の東京五輪のように2020年東京五輪もまた、国際政治の地殻変動が起こる懸念があるのだ。

 そのタイムリミットに向けて、朝鮮半島は今以上に緊張をはらみ、近距離にある日本は間違いなく対応が問われる。米紙ウォールストリート・ジャーナルの社説は、安倍首相の決断を評価しながら、「いまや第9条は、日本を危険にさらしつつある」と逆説的に論評している。同紙は集団的自衛権を行使するために、防衛力に加えて攻撃力をもって抑止力を強化するよう強調している。


安倍首相は今回の表明で、戦争放棄の9条1項と、戦力と交戦権を否認する2項をそのままに、自衛隊の存在を「3項」として明記する意向を示した。政治の太平楽に対するショック療法である。首相の真意は2項削除にあると思われるが、そこを迂回(うかい)して3項の挿入だけにとどめたのは、「実現可能性」を優先したとしか思えない。


 安倍首相の提言は、学者の中にさえある「自衛隊は憲法違反である」といいながら、「9条改正には反対」というばかげた矛盾を解消することである。安倍構想が2項を残したままで積極防衛が可能かは疑問だが、衆参両院の憲法審査会を通して2項削除も含め9条改正のありうべき姿を正面から議論してほしい。

 軍事オプションは、将来の大規模な悲劇を回避するため、目前の中規模な悲惨を覚悟する事態であり、それらを避けるのが抑止力の強化である。「2020年東京五輪・パラリンピック」までに残された時間は少ない。
(東京特派員)

2017.5.17







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核兵器放棄の期待は非現実的だ 日本は核兵器以外の手段による「相互確証破壊」で対抗せよ

2017-05-16 20:11:29 | 正論より
5月16日付     産経新聞【正論】より


核兵器放棄の期待は非現実的だ 日本は核兵器以外の手段による「相互確証破壊」で対抗せよ 

東京国際大学教授・村井友秀氏


http://www.sankei.com/column/news/170516/clm1705160006-n1.html


 中国や北朝鮮は核兵器を持っている。北朝鮮は「戦争になれば日本は放射能雲に覆われる」(『労働新聞』5月2日)と威嚇し、14日に日本海へミサイルを発射した。日本はいかにして大量破壊兵器の脅威に対抗すべきか。




≪貧乏国が固執した魅力的兵器≫


 大量破壊兵器の中で、化学兵器と生物兵器は国際条約の化学兵器禁止条約と生物毒素兵器禁止条約によって使用・保有・開発が禁止されている。他方、核兵器は「核兵器による威嚇・使用は一般的に国際法に反するが、国家の存亡が懸かる自衛のための極限的状況下での核使用は合法・違法とも言えない」(国際司法裁判所)というものである。また、「原爆の技術そのものが悪魔性を帯びているのではなく、その技術を使う国の意思によってその性格が決まる」(ガンジー・インド首相)という見方もある。

 さらに、核兵器には別の側面がある。「核兵器が存在する世界では、最強の国家の半分以下の経済力の国家でも大国の地位を保持することができる」(国際政治学者のケネス・ウォルツ氏)と言われている。

 核兵器は低コストで通常兵器の劣勢を相殺する。1平方キロに展開している敵を殲滅(せんめつ)するために、通常兵器を使用すれば2千ドル、核兵器では800ドル、化学兵器では40ドル、生物兵器では1ドルかかる。


 すなわち、核兵器は貧乏国にとって魅力的な兵器である。中国も貧しかった時代、通常兵器を近代化する経済的余裕がなく、安価な核兵器とただ同然と見なしていた人民の命を大量消費する人民戦争によって米軍に対抗しようとした。

 1963年、中国政府は「たとえズボンを穿かなくても核兵器を作る。米帝国主義の核恫喝(どうかつ)の前で土下座することはない」(陳毅外交部長)と主張した。65年、パキスタンも「インドが核兵器を持てば、国家の名誉を守るためにわれわれは草や葉を食べても核兵器を持つ」(ブット人民党党首)と述べている。北朝鮮も「米国が制裁ごときで民族の命であり国の宝であるわれわれの核抑止力を奪えると思うのなら、それ以上の妄想はない」と言っている。

 現代世界では国家が最高の権力を持っており、これらの国家に核兵器を放棄するように命令できる機関は存在しない。したがって、これからも核武装を図る国家は現れるだろう。他方、「米国は通常兵器の分野で圧倒的に優位な立場に立っている。したがって、核兵器を全廃し、通常兵器のみが存在する世界になれば米国の優位は万全になる」という意見も米軍の中に存在する。





≪恐怖が支えた冷戦の「平和」≫


 さらに核兵器には飽和点がある。核兵器の破壊力は巨大であり、敵国の中枢を破壊できる核兵器があればそれ以上の破壊力は不必要になる(飽和点)。しかし通常兵器は破壊力が小さく、戦争に勝つには常により大きな破壊力を追求しなければならない。通常兵器の近代化競争には限度がない。



 冷戦時代、フランスの対ソ抑止戦略はソ連の国力の15%を破壊することであった。15%の国力の破壊はソ連が耐えられる限度を超えるとフランスは考えた。フランスの計算によれば、フランスとソ連の核戦力の差から、戦争になればソ連の国力の15%、フランスの国力の95%が破壊され、共に致命傷を負うことになる。15%を破壊されても95%を破壊されても耐え難い損害を受けたという心理的ダメージは同じである。フランスの抑止戦略は、ソ連がフランスを攻撃すればソ連は少なくとも片腕を失うことを保証することであった。フランスは核ミサイルを搭載した6隻の原子力潜水艦で、このメカニズムを保証しようとした。

 冷戦時代の米ソの抑止戦略も同じであり、戦争になれば共に滅びる「相互確証破壊」戦略であった。この恐怖の構造が冷戦時代の「長い平和」を支えたのである。




≪現代科学が新たな抑止を可能に≫


 核兵器保有国が核兵器を放棄することを期待するのは非現実的である。核兵器による攻撃を抑止するためには、核兵器を放棄するようにお願いするよりも、歴史的に証明された「相互確証破壊」による抑止システムが効果的である。


 ただし、日本が核武装を拒否する道を選ぶのならば、核兵器以外の手段による「相互確証破壊」を追求すべきである。現代科学は核兵器によらない「相互確証破壊」を可能にしつつある。高精度長射程ミサイルや人工知能を搭載した無人兵器などが開発されている。米国も原子力潜水艦に搭載したミサイルの弾頭の一部を核兵器から通常兵器に変えた。

 また、核兵器は道徳的に悪であると考える国は、核兵器による報復を躊躇(ちゅうちょ)するかもしれない。報復がないと攻撃側が考えれば先制攻撃を抑止できない。他方、通常兵器による報復は罪悪感がなく確実に実行されるだろう。

 抑止のポイントは二つある。一つは人間を動かす最大の動機は恐怖であること、二つ目はコストをかけるほど抑止の信頼性が高くなることである。(東京国際大学教授・村井友秀 むらいともひで)







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慰安婦の陰で韓国が「日本海」を「東海」併記へと着々と布石 米国にも直訴 世界地図からJapan Seaが消える?

2017-05-10 23:30:15 | 北朝鮮・韓国

慰安婦の陰で韓国が「日本海」を「東海」併記へと着々と布石 

米国にも直訴 世界地図からJapan Seaが消える?


http://www.sankei.com/premium/news/170510/prm1705100006-n1.html



日本に対する韓国の生理的拒絶反応と憎悪、そしてねちねちとしつこい日本たたき。筆者の周囲で韓国嫌いが増えている。それも、これまで親韓派あるいは知韓派といわれた人まで「韓国よ、いい加減しろ」「韓国にはほとほとあきれた」「韓国とはもう付き合いたくない」とはっきりと言うようになった。


 日韓間には大きな懸案がいくつか横たわるが、いずれも韓国側の攻勢に泰然と大人の対応をしてきた日本側が押され気味の感は否めない。慰安婦問題をめぐっては韓国内だけでなく世界中に慰安婦像を増殖させている。最近は「日本に強制的に徴用された」として、やせこけた徴用工の像まで日本大使館前と釜山の総領事館前に設置する動きもある。


 韓国が不法占拠している竹島(島根県隠岐の島町)の問題もある。李明博元大統領は在任中の2012年夏に竹島に上陸し、昨今の日韓関係悪化のきっかけになった。


 実は、竹島や慰安婦問題の陰に隠れて、韓国は日本海(Japan Sea)を韓国側の呼称「東海(East Sea)」に変えるべく、着々と布石を打っている。韓国としては、憎き日本を連想させる日本海という名称を何としてでも変えたいところなのだろう。




◇突然言いがかり


 日本の外務省によると、韓国側が突然、日本海の名称に異議を唱え始めたのは1992年の第6回国連地名標準化会議が最初だ。韓国側は19世紀後半の「日本の拡張主義や植民地支配」により日本海の名称が広がった、と主張している。


 これはトンデモない言いがかりだ。外務省の調査で19世紀初頭以降、欧米の地図で日本海の名称が圧倒的に使われていた事実が確認されている。19世紀に作成された古地図を調査したところ、米議会図書館では1213枚のうち87%が、フランス国立図書館では215枚のうち95%が、大英博物館およびケンブリッジ大学では58枚のうち86%が日本海と表記していた。

 国連でも2004年3月、日本海が標準的な地名であり、国連の公式文書では日本海が使用されなければならないとの方針を確認している。また米国政府が使用する地名を決めている政府機関「米国地名委員会」でも日本海が唯一の公式的な名称であることを決定している。




◇巧妙な手口にはまり…


 4月下旬、世界の海の名称や境界を記載した国際標準海図集「大洋と海の境界」を刊行している国際水路機関(IHO)の総会が本部のあるモナコで開かれた。IHOとは水路図誌(海図、灯台表など)の統一を促進するための活動を行う国際機関で1921年設立し、85カ国が加盟する。


 IHOは1929年に「大洋と海の境界」の初版を刊行し、日本海を単独表記してきた。現行版は1953年刊行の第3版で、その改訂をめぐり韓国側が1997年の総会で初めて日本海の表記について問題提起し、3年ごとに開かれる総会のたびに東海と表記すべきだと主張し続けてきた。


 この韓国側のごり押しの執拗(しつよう)な主張に、加盟国もさじを投げたのか2012年の総会で同問題については今後議論しないという決定を下した。

 しかし韓国政府は2014年の臨時総会で「1カ国でも問題提起をする加盟国があれば議論する」という文面を総会決定文に追加させるという姑息(こそく)な手段で議論の余地を残していた。


 韓国メディアの報道によると、今回の総会で韓国側は東海の表記については言及せず、64年間改訂されていない「大洋と海の境界」の第3版は現実とのずれが大きくなっているために改訂が必要で、改訂しないのであれば破棄するべきと問題提起した。


 結局、総会では第3版の改定について非公式協議体を設け、3年間議論することで合意したという。日本側も改訂のための協議を拒否する理由はなく、協議体の構成そのものに合意したとされる。第3版の改訂または破棄については2020年に再び議論される見通しという。





◇ホワイトハウスにも直訴


 韓国政府は民間の地図に東海の表記が増えればIHOでも有利な立場に立てるとみて、主な地図制作会社などに東海の表記を呼びかけているという。ただ長年、国際的に日本海が定着しているため、東海にガラッと変更させることは難しい。ならば、と韓国側は日本海と東海の併記をさまざまな形で訴えている。

 韓国メディアが政府当局者の話として伝えたところによると、東海が単独表記されている、あるいは日本海と東海が併記された地図は2000年代初めには約2%に過ぎなかったが、2009年にはおよそ28%まで増えたという。


 こうした動きは米国内でも起きている。米国在住の韓国系住民が4月下旬、刊行物などに日本海と表記している米政府に対し東海の併記を求める請願書を、ホワイトハウスのホームページに設置されているオンライン請願システム「We the People」に提出。同請願サイトでは1カ月以内に10万件の署名が集まった場合、ホワイトハウスが回答する規定になっている。8日現在、すでに10万件を超える署名が集まっており、いずれ米政府が何らかの回答を出すみられる。

 またこの韓国系住民らはホワイトハウスだけでなく、日本と北朝鮮を除くすべてのIHO加盟国にも「東海」併記を求める内容の公文書を4月中旬に発送したという。





◇米バージニア州では公立高校の教科書に東海併記


 米国での東海併記運動は、2007年にバージニアで始まったとされる。2014年、韓国系住民らが中心となり同州上院議会に東海併記を承認する法案が提出され、圧倒的多数により可決。“東海併記法”は同年7月1日に施行され、同州のすべての公立高校の教科書では東海併記が義務づけられたという。


 こうした米国での東海併記運動は、バージニア州以外にもニュージャージー州やカリフォルニア州などで慰安婦像・碑の設置運動と合わせて進められているという。

 慰安婦問題を世界中に広めようとしている韓国のことだから、米国に限らず韓国系移民が多いカナダやオーストラリアなどでも東海併記の動きが出てきてもおかしくない。このままだといつか日本海が東海に乗っ取られてしまう、と危惧しているのは筆者だけだろうか。
(外信部次長 水沼啓子)

2017.5.10





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金正恩氏斬首後の「不統一国家」 度を超す自己主張+激高しやすい民族性+偏狭な民族&共産主義者が入り乱れ…

2017-05-08 12:56:38 | 歴史
【野口裕之の軍事情勢】

金正恩氏斬首後の「不統一国家」 度を超す自己主張+激高しやすい民族性+偏狭な民族&共産主義者が入り乱れ…


http://www.sankei.com/premium/news/170508/prm1705080007-n1.html


韓国の新政権発足に伴い、米トランプ政権にはぜひ、大東亜戦争(1941~45年)後の朝鮮半島情勢を学習してほしい。朝鮮人が国家体制にかかわらず、いかに統治能力を欠く致命的欠陥を持っているかを知ることは、朝鮮労働党の金正恩委員長が主導する北朝鮮を排除して誕生する?「新国家」との付き合い方や間合いの取り方に資するためだ。


 中国を後ろ盾にした北朝鮮主導の南北統一国家が朝鮮半島に樹立される事態は、核兵器で自国の要求を通そうとする反日国家の現出を意味し、わが国の国運を傾かせる。もっとも、いずれの国家形態であろうと、度を超した自己主張+激高しやすい民族性+偏狭な民族主義者&共産主義者が入り乱れ=一致団結して建国に邁進するまとまりに欠け、日米はじめ国際社会をあきれさせるだろう。


 折しも、CIA(米中央情報局)のマイク・ポンペオ長官が4月末、韓国入りした。韓国大統領選挙後の米韓関係や金正恩政権崩壊後の国体や半島情勢などについて、韓国の情報機関・国家情報院の李炳浩院長らと意見交換したもようだ。




◇強弁だけの「抗日戦」


 大日本帝国は1945年8月15日、大東亜戦争敗戦を国民に知らせた。無政府状態を憂うわが国の朝鮮総督府は《朝鮮建国準備委員会》設置を比較的冷静・公平に対処できる朝鮮人指導者に要請した。ソ連軍侵攻→朝鮮人政治・思想犯の釈放・流出→朝鮮共産化→日本人への掠奪・暴行…が想定され、朝鮮人釈放や治安維持への協力を取り付ける意図もあった。


 だが、自治組織に過ぎぬ朝鮮建国準備委員会は1945年9月6日《朝鮮人民共和国》を樹立し“独立”を宣言してしまう。


 一連の流れの中で、朝鮮総督の阿部信行・陸軍大将(元首相/1875~1953年)や朝鮮軍管区司令官の上月良夫・陸軍中将(1886~1971年)が総督府はじめ主要な建物から日章旗を降ろし、太極旗(現韓国国旗)を掲揚させる。


 しかし“独立宣言”直後、進駐してきた米軍は太極旗を降ろさせ、日章旗を再び掲揚させた。米軍の軍政が本格的に始まるや、日章旗が星条旗へと付け替えられた。なぜか-。



 米国は日章旗掲揚で朝鮮=日本だと公認。自らの軍政に正当性を持たせた。朝鮮が日本と別国家ならば、米国が朝鮮を「解放」したことになり、解放後は統治を朝鮮に任せる過程を生む。これを嫌った米国は終戦直後、米軍上陸前の統治を総督府に密命した。治安も朝鮮軍管区や日本の官憲に担わせた。


 上陸後も、日本人官吏は相当期間米軍の軍政を支援、治安も軌道に乗るまで日本側が協力した。日本側の統治能力や軍紀を大いに評価していた背景もあった。反面、米国は当初、朝鮮人を軍政より徹底的に遠ざけた。結果、朝鮮人の軍政登用は牛歩で進められた。なぜか-。

 統治能力欠落+度を超した自己主張+激高しやすい民族性+偏狭な民族主義者&共産主義者が入り乱れ=一致団結して建国に邁進するまとまりに欠けている…など、こと朝鮮人に関し米国の学習能力は高かった。


 実際1945年秋、30もの朝鮮人軍閥が警察署や新聞社、企業・工場・商店を勝手に接収。米軍は武装解除を強制したが効果は限られた。政党や政治結社も200近くにのぼり、指導者は内部抗争を繰り返し暗殺・テロが横行した。


 そもそも、自治組織がなぜか“独立宣言”して出来上がった《朝鮮人民共和国》ですら中華民国に建てた韓国臨時政府と対立。2つの“政府”それぞれの内部でも抗争に明け暮れた。米国は朝鮮人の政党も政治活動も全く認めなかったのに、この有り様であった。

 かくなる混乱では、38度線の北側に陣取るソ連軍に対する力の均衡維持はおぼつかない。米国の最重要課題はソ連の半島支配阻止で、南朝鮮独立は副次程度の認識だった。米国は、曲がりなりにも内閣・政府を通じ権力を行使した日本と同じ統治形態ではなく、韓国に直接軍政を敷いた正解を噛み締めた。




◇日本の欠陥憲法よりひどい韓国の歪曲憲法


 さて、統一国家か南北分断国家か、あるいは民主国家か否かは別として、「新国家」樹立に伴い、新生政府は「史実の貼り替え」に着手。憲法改正、いや憲法粉飾で「見事な腕前」を発揮するに違いあるまい。

 韓国では憲法上、韓国が日本となった《日韓併合/1910~45年》は存在せず、代わりに併合期の《3・1運動/1919年3月1日》を起点とする建国物語が記されている。


 筆者は3・1を反日暴動、韓国は「独立運動」と認識するが、たった2カ月で収束。米国の独立戦争(1775~83年)のような長期・大規模戦争を思い描くのは誤り。日本国憲法は“不磨の大典”を気取り進化を放棄しているが、韓国憲法は研磨し過ぎでバーチャル世界に踏み込んだ。生い立ちのいかがわしさ故に出来の悪い日本の欠陥憲法の方が、まだマシか…。


韓国憲法前文にはこうある。

 《悠久の歴史と伝統に輝くわが大韓国民は、3・1運動で建立された大韓民国(韓国)臨時政府の法統…を継承》


 朝鮮人が日韓併合期の3・1運動に際し独立を宣言した点は史実。ただ、憲法が宣言を捉え、建国をうたうのは無理スジだ。このシナリオだと、韓国は大韓帝国の正統後継国家で、日韓併合は史上存在しなくなる。《大韓帝国→大日本帝国→米国軍政→韓国》との正史ではなく《大韓帝国→日本の植民地→韓国臨時政府→韓国》との虚構だ。日韓併合は国際法上合法なのだが、韓国は朝鮮も大韓帝国も世界地図から消えた哀史を正視できないでいる。


 3・1運動は2カ月で終わった上、参加者は多いが逮捕→服役者は少なく、量刑も軽かった。何よりも初代大統領・李承晩(1875~1965年)が大東亜戦争後の1948年に行った独立宣言の正当性まで問われかねず、運動に建国の起点を見いだすのは難しい(諸説アリ)。


 確かに韓国臨時政府は1919年、中華民国・上海で結成され、その後、各地を転々とした。ところが、適性を疑われ連合・枢軸国双方が国際承認を拒んだ。


 現に、「韓国臨時政府主席」の金九(1876~1949年)は戦後、個人資格で“帰国”。自伝で憂いた。

 《心配だったのは(大東亜)戦争で何の役割も果たしていないため、将来の国際関係において、発言権が弱くなること》





◇一蹴された連合国資格と棚ぼた式の独立


 そう。近代に入り、日本と朝鮮は本格的に矛を交えておらぬ。まともな対日ゲリラ抗戦もゼロ。韓国は「日帝を負かして独立した」のではない。先述したが、終戦3年後、半島で統一国家建設をたくらむソ連に対抗した対日戦勝国・米国が長期信託統治を断念。米国に独立を大きく前倒ししてもらった棚ぼた式だった。

 だのに、韓国の「連合国願望」は筋金入りだ。


 李承晩は長崎県・対馬の「返還」要求と抱き合わせで、領土も画定する「サンフランシスコ講和条約署名国の資格が有る」と1949年、米国に訴えた。戦勝国=連合国入りさせろ-とゴネたのだ。駐韓米大使は米政府に口添えした。ワケがある。韓国は在日朝鮮民族の連合国民扱い=賠償を求めるなど国際の法・常識を無視する数多の無理難題を吹っ掛けたが、日本は無論、米国もほぼ呑めぬ内容だった。米国は難題を押さえ込むべく、韓国の署名要求を預かり、条約草案で一旦は締結国リストに加えた。


 けれども、日韓は戦っていないと英国が異を唱え、朝鮮戦争(1950~53年休戦)を共に戦っていた米国も英国にならう。米国は《連合国共同宣言》への署名(1942年)がないとも指摘したが、韓国は執拗に食い下がった。連合国共同宣言参加国は最終的に47カ国。全物的・人的資源を対枢軸国用戦力に充てる方針に同意していた。

 間の悪いことに、フィリピン独立準備政府や多くの亡命政府も参加していた上、連合国(United Nations)なる用語が共同宣言で正式採用された。交渉過程で韓国は、日本の講和条約締結を終始妨害し、島根県・竹島の韓国編入すら主張した。結局、韓国が得たのは在朝鮮半島の日本資産移管のみ。講和会議へのオブザーバー参加も拒絶された。


 日本だった朝鮮の人々は、欧州列強の植民地兵のごとく人間の盾にされもせず、日本軍将兵として戦った。朝鮮人高級軍人の武勇は目覚ましく、触発された朝鮮人が志願兵募集に殺到した。1942年と43年の場合、募集各4000名/6000名にそれぞれ25万5000人と30万人超が受験。競争倍率63~50倍が裏付ける朝鮮人の戦意に日本=朝鮮一体を確信する米国専門家もいた。朝鮮人の軍人・軍属は24万2000人以上。2万1000柱の朝鮮人英霊が靖国神社に祭られる。



 国際社会に連合国資格を一蹴されても、韓国は歴史の粉飾・捏造に耽った。韓国臨時政府は1940年、中華民国内で《韓国光復軍》を立ち上げる。韓国の教科書にも載るが、2013年の光復軍創立73周年、韓国メディアは光復軍について講釈した。


 《英軍と連合して1944年のインパール戦闘をはじめ、45年7月までミャンマー(ビルマ)各地で対日作戦を遂行した》


 実は、光復軍の動員計画は遅れ、創設1年目の兵力は300人。米CIAの前身で抵抗活動を支援するOSS(戦略諜報局)協力の下、朝鮮半島内で潜入破壊活動を考えたが、日本降伏が先になった。



 作家・池波正太郎(1923~90年)によれば、剣客は真剣での立ち合いに敗れると、相手と10年後の勝負を契る。再び負ければさらに10年後と、勝って自信を取り戻すまで挑み続ける。が、日韓関係は池波の逸話とは微妙に違う。繰り返すが、韓国は日本と戦ってはいない。独立を勝ち取ったのでもなく、日本を負かした米国の進駐で、棚ぼた式に日本統治の終わりを迎えた。従って、歴史を正視すると永久に自信は取り戻せない。取り戻すには、歴史の粉飾・捏造が手っ取り早い。

 邦家の命運を外国に委ねる日本のお粗末憲法でさえ、歴史はデリートしてはいない。

2017.5.8









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北朝鮮への武器輸送支援、67歳邦人野放し ミグ21戦闘機や大量ロケット弾…

2017-05-07 16:52:32 | 北朝鮮・韓国
北朝鮮への武器輸送支援、67歳邦人野放し ミグ21戦闘機や大量ロケット弾…

国内法整備追いつかず、制裁「本気度」問われる政府


http://www.sankei.com/politics/news/170507/plt1705070006-n1.html


 核・弾道ミサイルの開発に絡み、北朝鮮が求める巨額の外貨や物資、技術者の移動阻止が世界的課題となる中、日本の対北制裁への取り組みについて専門家から厳しい見方が出ている。国連安全保障理事会の北朝鮮制裁委員会専門家パネルが、北朝鮮の制裁違反を繰り返し幇助(ほうじょ)したと断じた企業の日本人経営者の男(67)についても、国内法の未整備もあり制裁措置は取られていない。安保理決議には法的拘束力がある。違反を放置すれば日本の対北制裁への“本気度”を疑われかねない。(加藤達也)










 2013年7月、パナマ政府によって北朝鮮貨物船「チョンチョンガン」が拿捕(だほ)された事件が契機となり、北朝鮮海運事業に関与する香港企業が浮上した。

 拿捕された船舶は北朝鮮の海運大手「オーシャン・マリタイム・マネジメント(OMM)」(本社・平壌)の所有で、キューバから北朝鮮へ向けミグ21戦闘機の胴体など大量の武器を運搬していた。


「中核的存在だった」


 調査の過程で、OMMと密接に連携する香港企業の経営者である日本人の男の存在が判明。一方、専門家パネルは安保理決議違反で14年7月、OMMを制裁対象に指定し、船舶の移動も禁じた。ところが、香港企業が複数の船舶をOMMに代わって運航、制裁は骨抜きになっていた。



 パネルは香港企業が同年12月、貨物船「グレート・ホープ」を中国から北朝鮮に移動させた事例などをつかみ、制裁違反に加担したとして香港企業を制裁対象に追加した。


 パネル報告書などによると、男は1990年代、OMMの前身の頃から北朝鮮の海運に関与。事実上のOMM東京事務所の所在地と同じ東京・新橋駅前の雑居ビルの一室に海運会社を登記していた。少なくとも香港で北朝鮮のフロント企業11社を運営し、中国人と協力して多数の船舶を動員。「海運分野で北朝鮮の制裁違反を手助けするネットワークの中核的存在だった」(海事関係者)

 ネットワークは制裁で身動きが取れない北朝鮮海運のため船舶を融通し、武器輸送などで暗躍。昨年8月、エジプトで大量の携行式ロケット弾が押収された事件にも関与していた。





◇法整備が追いつかず


 香港企業を経営していた日本人の男について、パネル報告書は実名を記載。日本政府関係者によると、男は現在、活動を休止しているとみられる。ただ、日本政府が安保理制裁決議違反だとして制裁や法的措置を科した形跡は見られない。

 対北安保理決議(1718、2094)は制裁違反を行った個人に対して、渡航禁止措置を科すことを加盟国に義務づける。


 ただ、日本政府は現在、在日外国人の核・ミサイル技術者や一部の在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)幹部らについて訪朝後の再入国を認めないとの措置にとどまっている。国内法の整備などが追いついておらず、今後も類似事例で制裁を科すことは困難な状況だ。

 元パネル委員の古川勝久氏は「日本は取り組みが遅れている」と指摘した上で、「国連制裁は複雑化し、専門的な技術や法的知識を要する。米国や英国のように日本政府内にも制裁専門の組織が必要だ」と話した。


                           


                          ◇




◇文世光事件 残した教訓


 重大な犯罪に関与した北朝鮮協力者に対する捜査や取り締まり、制裁について、これまでにも日本の姿勢が消極的だと指摘されたことはあった。韓国で1974年8月15日に起きた朴正煕大統領暗殺未遂(文世光)事件は代表例といえる。


 在日本韓国居留民団(当時)の団員で大阪市出身の文世光元死刑囚=当時(22)=は73年11月、朝鮮総連の大阪地方幹部の男にそそのかされ、資金提供や射撃訓練などを受けて朴大統領暗殺を決意した。

 文元死刑囚は74年5月、大阪停泊中の北朝鮮船「万景峰号」内で思想教育を受け、7月には大阪府警の交番から実弾入りの拳銃を盗み出し、8月に渡韓。日本統治からの独立を祝う式典壇上にいた朴大統領を銃撃したが失敗し、近くの陸英修夫人を射殺した。



 韓国当局は、朝鮮総連(北朝鮮側)の差し金で首脳殺害を企てたテロ事件とみて、日本国内での背後関係解明も視野に捜査。朝鮮総連の指令や支援のもとに行われた犯行と断定し、「対韓国テロの拠点」である朝鮮総連への捜査や、文元死刑囚を犯行に仕向けた男の身柄引き渡しを要請した。


 一方で日本側は、初動で文元死刑囚の渡航に協力した日本人女性を逮捕したものの、朝鮮総連の関与などについて解明できないまま捜査を終結させた。共犯とみられた男の身柄引き渡しにも応じなかった。


 朴大統領は「日本は赤化工作の基地だ」と指弾。日本政府の姿勢に不満を抱いた韓国民が在韓国日本大使館に乱入するなど、日韓関係は国交正常化後、最悪の状況となった。


 事件について、北朝鮮の対日工作に詳しい西岡力麗澤大客員教授は「日本がテロの基地になっていたことを示す事例だ」とし、「北朝鮮のテロに対して日韓がともに戦う体制が構築できず、結果として70年代後半に多くの日本人が北朝鮮に拉致されたといえる。テロと戦わないと必ず新たなテロが起きるという教訓を残した事件だ」と総括している。

2017.5.7



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【用語解説】国連安全保障理事会北朝鮮制裁委員会専門家パネル

 安保理制裁委の下で対北朝鮮制裁決議違反を調べる組織。北朝鮮の核実験を受けて2009年に設置され、定員は8人。調査は国連憲章7条により加盟国への法的拘束力がある安保理決議に基づいており、加盟国は調査への協力義務がある。調査結果は毎年、報告書にまとめられ、決議案にも勧告する。









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