来年初頭の授業における発表のため、手習所(寺子屋)に興味をもって近世日本教育史の勉強をしてます。その過程で、リチャード・ルビンジャー(川村肇訳)『日本人のリテラシー―1600-1900年』(柏書房、2008年)を読み始めました。
本書は、江戸時代の一般民衆に焦点をあてて、彼らがいつ、なぜ読み書き能力を獲得していったのかを明らかにしたものです。ルビンジャーは、人々の読み書き能力の獲得過程は、地域・性別・職業・階層により異なっており、その格差を克服するのに20世紀初頭までかかったとしています。読み書き能力は、その獲得に有利な地域(大都市近郊・交通機関発達地など)に住んでいる人々には生活改善・権力強化の助けになり、獲得に不利な地域(大都市遠郊・山間部など)に住んでいる人々には指導層と一般民との間の文化的差異を深めたことを指摘しています。本書は、花押・入札などの比較的新しい資料を使って、読み書き能力という視点から近世日本教育史を描いて見せています。
まだ読み切っていません。しかし、ちょっと目を通そうかな程度で手に取ったのですが、気がつくと「まだ読みたい!」という気持ちがわき上がってきます。また、史料や先行研究(日本の!)の渉猟具合を見て、外国の日本教育史研究者がここまでやれるのか、と素直に驚いています。裏返して、同じ日本語を母語とする者なのに自分はなんと近世日本教育史研究に暗いのか、と反省せざるを得ません。
また、訳者の川村氏の翻訳姿勢も興味深いものがありました。訳者のはしがきやあとがきによると、多くの読者に読んでもらうため翻訳調を避け、原著に忠実に大胆な意訳を控えつつできるかぎり平易に心がけ、外来カタカナ語をできるだけ日本語に置き換えたといいます。訳者あとがきでは、「翻訳というのは英語を日本語に置き直していく作業かと思っていたが、むしろ全体をつかんだ上で言葉を紡ぎだしていく創造の作業であることを知ることができた」と述べています。原著に忠実であるが故に原著の言いたいことを読者に伝えられない、という学術書翻訳の功罪論がありますが(鈴木直『輸入学問の功罪―この翻訳わかりますか?』ちくま新書、筑摩書房、2007年)、ついそれを思い出しました。
川村氏の翻訳姿勢には、感謝の念に堪えません。私は翻訳ものの本はとても苦手なのですが、この本はとても読みやすいのです。いや、読みやすいのは、翻訳姿勢だけでなく、ルビンジャー氏・川村氏の文章力があるからこそですか。それにしても、読めば読むほど、どんどんアイデアがわいて出てきます。こんな刺激的な本に出会わせてくれたのですから、「翻訳して出版してくれて、ありがとうございます!」ですね。
ちょっと紹介記事を書くだけのつもりだったのに、こんなに書いてしまった(笑)。おもしろい本に出会うと、筆も(キーボードを打つ指も?)踊るなぁ。
本書は、江戸時代の一般民衆に焦点をあてて、彼らがいつ、なぜ読み書き能力を獲得していったのかを明らかにしたものです。ルビンジャーは、人々の読み書き能力の獲得過程は、地域・性別・職業・階層により異なっており、その格差を克服するのに20世紀初頭までかかったとしています。読み書き能力は、その獲得に有利な地域(大都市近郊・交通機関発達地など)に住んでいる人々には生活改善・権力強化の助けになり、獲得に不利な地域(大都市遠郊・山間部など)に住んでいる人々には指導層と一般民との間の文化的差異を深めたことを指摘しています。本書は、花押・入札などの比較的新しい資料を使って、読み書き能力という視点から近世日本教育史を描いて見せています。
まだ読み切っていません。しかし、ちょっと目を通そうかな程度で手に取ったのですが、気がつくと「まだ読みたい!」という気持ちがわき上がってきます。また、史料や先行研究(日本の!)の渉猟具合を見て、外国の日本教育史研究者がここまでやれるのか、と素直に驚いています。裏返して、同じ日本語を母語とする者なのに自分はなんと近世日本教育史研究に暗いのか、と反省せざるを得ません。
また、訳者の川村氏の翻訳姿勢も興味深いものがありました。訳者のはしがきやあとがきによると、多くの読者に読んでもらうため翻訳調を避け、原著に忠実に大胆な意訳を控えつつできるかぎり平易に心がけ、外来カタカナ語をできるだけ日本語に置き換えたといいます。訳者あとがきでは、「翻訳というのは英語を日本語に置き直していく作業かと思っていたが、むしろ全体をつかんだ上で言葉を紡ぎだしていく創造の作業であることを知ることができた」と述べています。原著に忠実であるが故に原著の言いたいことを読者に伝えられない、という学術書翻訳の功罪論がありますが(鈴木直『輸入学問の功罪―この翻訳わかりますか?』ちくま新書、筑摩書房、2007年)、ついそれを思い出しました。
川村氏の翻訳姿勢には、感謝の念に堪えません。私は翻訳ものの本はとても苦手なのですが、この本はとても読みやすいのです。いや、読みやすいのは、翻訳姿勢だけでなく、ルビンジャー氏・川村氏の文章力があるからこそですか。それにしても、読めば読むほど、どんどんアイデアがわいて出てきます。こんな刺激的な本に出会わせてくれたのですから、「翻訳して出版してくれて、ありがとうございます!」ですね。
ちょっと紹介記事を書くだけのつもりだったのに、こんなに書いてしまった(笑)。おもしろい本に出会うと、筆も(キーボードを打つ指も?)踊るなぁ。