教育史研究と邦楽作曲の生活

一人の教育学者(日本教育史専門)が日々の動向と思索をつづる、個人的 な表現の場

教職課程教員は教育史にどのように向き合うべきか

2014年12月23日 23時55分55秒 | 教育研究メモ

 先日の記事では、教育史が役に立つと言いました。今回は、教育史を有効に活用するために、教職課程教員は何をすべきかおおまかに言い換えてみたいと思います。

 たとえば、先日は次のように教育史の効果について以下のように述べました。

  教育史は、過去の経緯を明らかにし、現在の教育のあり方を相対化する。現在のあり方を批判可能にし、将来のあり方を考える材料と姿勢をつくる。

 教職課程教員としては、このような現在の教育のあり方を相対化するような授業教材や活動を研究・開発していかなければなりません。現在の教育を批判的(否定的にではありません)にとらえて将来のあり方を考えるように、教材や活動を具体的に考え、計画し、実践を積み重ねなければなりません。
 この場合、教師志望者にはとくに、ことの本質にせまるような教育研究・教材研究の批判的立場を備えて創造的な実践を考えたり、計画したり、模擬的に行ったりするような活動機会を提供するとよいでしょう。また、教師にはならないけれども教員免許状取得や卒業単位のために教職関係科目を履修する学生には、進路選択や子育て、生涯学習、政策参加などについて主体的・自立的に考えたり、模擬的に行ったりするような活動機会を提供し(この活動機会は教員志望者にも必要ですが)、より自由で適切な国家社会を形成する国民や市民を養成することに寄与するように構想・実施するようにするといいと思います。

 そのほかに、過去の教育の成功についての教材を通して、教育の遂行や条件整備の際に、守っていくべき理念や手順を見極める活動を考えることも大事です。また、過去の失敗についての教材を通して、教訓を読み取ったり、類似の教育課題に適用してみたりする活動を考えることも大事です。これらによって、教職科目履修者に、現在や将来の教育のあり方に関する決断や合意について、的確さや説得力を付与していく能力や擬似経験を得させるのがよいと思います。

  なお、上記の教材・活動には、過去において特定の教育思想や学説、方法、制度などが成立した歴史的文脈を把握する教材・活動が不可欠です。これによって、過去の成功や教訓を、そのまま現在に適用するような短絡的輸入や形骸化を避ける態度を身につけるように、授業を計画・実施します。そのあとに、現在の歴史的文脈に対する注目を促しながら、現在・将来の教育についてより慎重・適切に思考する活動を位置付けるとよいでしょう。

 以上、教職課程教員が教育史にどのように向き合うべきか考えてみました。上記のような方針に基づき、教材研究・開発や授業計画・改善を行っていくと面白いことができそうです。むしろ、「役に立つ教育史」を実現するには、研究のあり方を変えるだけでなく、教職課程の現場が変わらないといけないような気がしてきました(とくに教育史学者である教職課程教員が)。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする