教育史研究と邦楽作曲の生活

一人の教育学者(日本教育史専門)が日々の動向と思索をつづる、個人的 な表現の場

学校教育改革・働き方改革とカリキュラム研究

2022年02月19日 07時06分00秒 | 教育研究メモ
 一週間お疲れ様です。先週末から、教師の働き方改革と学校教育改革を両立させる改革案をつぶやき始めたところでしたが、平日はちょっと執筆するのは無理だったので少し空きました。以下、教務の先生なら分かり切った話をしますが、続きです。

 私は、教師の仕事時間の半分をカリキュラム研究(カリキュラムマネジメントと呼んでも可)に使うべきと思っています。PDCAのうち、Dだけでなく、P・C・Aにも多くの時間をかけるべきです。教師の教育研究は、個別の単元・授業や指導法の改善・実施につなげる必要がありますが、私はそれらを組織化・体系化したカリキュラム研究までもっていってほしいと思っています。そこまでできてはじめて、教師は専門職として認められると思います。数十分のプレゼンテーションをつくるだけなら一般人のゲストでも可能ですし、一対一の個別指導なら塾講師やボランティアでもできます。
 働き方改革を進めるといっても、やみくもに教師の授業時間を減らすことはできません。学校教育法施行規則は学校の標準総授業時数を定めています。まずはこれをクリアしなければなりません。小学校では、第1学年850時間、第2学年910時間、第3学年980時間、第4~6学年1015時間です。中学校では全学年共通の1015時間です。標準時間ですから普通はこれより時間数は増えますが、基本的には教師の授業時間の問題は、この標準1015時間をどうするかというところにあります。1015時間の授業時間をどう計画するかが、教師のカリキュラム研究の基本的問題となります。学習指導要領総則に記されている通り、カリキュラム編成の主体は「各学校」です。学校の構成員は教師ですから、最終責任者は校長であるとはいえ、実際にカリキュラムをつくるのは教師たちです。この場合の「教師たち」というのは、もちろん教務担当・研究担当の特定の先生たちという意味ではなく、すべての教師という意味ですね。

 カリキュラムをつくるときには、当然ながらまず目的を意識します。目的が定まれば範囲も決まります。学校改革・働き方改革の目的は先日から言っている通り子どもたちの被教育権・学習権保障です。ここでいう子どもたちの学習は教科の学習にとどまらず、その他の教育活動における学習も含みます。ペーパーテストの点数で測るような知識・技能の蓄積や認知的能力はもちろん、バランスのとれた様々な人間性や感情の成長も含みます。教育は、これらの多面的・全人的な学習を喚起・支援するものと考えています。このような意味での教育・学習を保障するカリキュラムをつくり、そのためにマネジメントしていく必要があります。
 さて、1015時間の標準授業時数をどう計画するか。授業時間については先日申し上げた通り、小学校教員がまず問題なので、ここでは小学校で考えておきます。1年間の授業日数を200日とします。教師の授業時間は半日午前中に必ず設定するとすると、1日4時間×200日で800時間を確保できます。つまり、残り215時間をどうするか、というのが工夫のしどころになることがわかります。
 教員4人につき1人の専科教員を加えて運用してもよいでしょう。もしそうでないなら、215時間分、午後の研究授業を計画しなければなりません。ここで留意すべきことは、毎日同じ時間数授業する必要はないということ、授業者は必ずしも同一の教員である必要はないということ、授業時間いっぱいをずっと説明し続ける必要はないということです。午後は、月・水・金曜を6時間目まで行い、2時間別々より連続の計画を意識的に立て、火・木曜は補習や特別教室など支援員・ボランティアに任せるなどする。また、複数学級で合同に授業するカリキュラムを立てれば、複数名の教員が隔週などで交代に指導できます。児童数が多くなる分、補助に複数名の支援員・ボランティアを入れる必要があるでしょう。一斉の指示はオンライン遠隔で出して、適宜教室を回っていってもよいと思います。ゲストやALTなどがT1になる授業や、演習的な内容で教え合いや調べ学習などを中心にした授業にしてもよいと思います。協同学習・調べ学習的な授業なら、異学年合同でも比較的効果的なカリキュラムを組みやすくなります。単発で計画してもあまり効果は期待できません。なお、1015時間以上の授業時数を組む場合も、増える分はこれら午後の計画と同じように考えるとよいでしょう。
 以上のように、子どもの被教育権・学習権保障と働き方改革とを両立する学校改革は、その学校の実態に合わせたカリキュラムが必須です。横断・活動全体で総合学習的なカリキュラムを組み、1日4時間・週20時間の担任による授業と、1日1〜2時間・週5〜10時間の複数教員や教員外による授業や活動とを組み合わせて計画することが有効だと思います。ですので、学校単位での全教員によるカリキュラム研究が必須であり、定期的に状況に合わせた調整が必要です。もちろん毎日の教材研究・授業づくりの時間も必要であり、それらを勤務時間内に設定する必要があります。時間外の教材研究・授業構想は教育の質を上げるものですが、それなしでも十分運用できる経営が必要です。となると、教員一人当たりの授業時間20時間以内・研究時間20時間程度の原則は重要です。事務は教員でもできますが、教員でなくてもできますので、事務要員の増員とICT等による効率化で、教員が事務にあたる時間はできるだけ減らさなくてはなりません。我々国民は、教員に事務をさせている場合ではない、と心得るべきです。

 なお、以上のことを考える上で気を付けるべきことは、授業といわゆる既習内容とを明確に区別してカリキュラムを研究することです。指導要領はすべて取り扱い、教科書も使用しなければなりませんが、教科書のすべてを授業で取り扱う必要はありません。考えるべきは、どこを授業で扱い、どこを補習や事前事後学習で扱うか、どこを宿題にし、どこの自主学習を奨励するかということです。これらもカリキュラム研究の中でよく考える必要があります。
コメント (4)
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