教育史研究と邦楽作曲の生活

一人の教育学者(日本教育史専門)が日々の動向と思索をつづる、個人的 な表現の場

教育の思想と歴史を学ぶ意義とは?

2020年06月19日 23時55分55秒 | 教育研究メモ
(以下は、私家版の拙著講義用テキスト『教育の思想と歴史―教育とは何かを求めて』(教育の理論①、2020年)の序章からの抜粋です。)

 教育の思想とは、教育に関するまとまった考えを指す。教育の思想には様々なものがあるが、本書では主に現代日本に関わる教育の見方・考え方(歴史的に継続しているものも含む)を学ぶ。現代日本において、教育を見るときの基本的な枠組みについて理解することを目指す。また、教育の歴史とは、教育が現在まで変遷してきた過程を指す。本書では、主に現在の教育の思想・理論そのものやそれを支える考え方を取り上げ、それらがいつ、なぜ発生し、どのように変化しながら今に至ってきたか、その過程について学ぶ。思想や理論は、歴史の中で誰かがつくったものである。なぜ我々はそのような見方・考え方をするようになったか、それには必ず理由がある。理由を知らなければ、思想や理論を深く理解することはできない。歴史は年表ではない。年表は事実を年代順に羅列したものだが、歴史は個々の事実を因果関係で結びつけて意味づけたものである。教育の思想や理論について、その理由や意味を知り、または考えるには、教育の歴史(教育史)を学ばなければ十分にはできない。
 以上の問題意識から、本書は教育の思想と歴史を取り上げ、現代日本において重要な教育の見方・考え方を深く理解することを目指す。
 [略]
 理論とは、ある現象を統一的に説明できるように筋道を立てて組み立てられた知識の体系である。教育には様々な種類の教育がある。つまり、教育の理論を学ぶこととは、様々な種類の教育をとりまとめて説明するために、教育に関する体系的知識について筋道を立てて学ぶことである。
 残念ながら、今のところ、唯一の教育の理論というものは存在していない。世界には、様々な教育の理論が存在している。そして、その様々な理論に基づいて教え方(教育の技術)が無数に存在し、日進月歩の勢いで増殖を続けている。教育者を目指している皆さんの第一の関心は、「教え方を学びたい」というところにあると思う。ところが、教え方だけを学ぼうとしても、それらが無数にあり、常に増殖し続けるのだから、どれだけ頑張っても、いつまでたっても極めることはできない。教え方を学ぶことは大事だが、それだけを学んでも教え方は身に付かない。ここで大事なのがその教え方の根拠となっている理論を学ぶことである。個々の教え方は一定の教育の理論に基づいて成立しているから、その根拠となっている理論を学ぶと、関連する様々な教え方を効率的に学ぶことができる。また、それ以上に重要なことは、根拠となる理論を理解した上で教えないと、理論の意図したことと異なる教え方をして、気づかない間に子どもたちの育ちをゆがめてしまう危険性が高まってしまうということである。ある教え方(方法)がどのような理論に基づいたものか考える習慣がないと、いくら教え方がうまくても間違った教え方をしてしまうかもしれない。そんなことにならないためにも、教育の理論を学ぶことは重要である。また、教育の理論を学ぶことは、教育に関する観念(教育観)を育てる。皆さんは教育を受けながら自分なりの教育観を持っている。しかし、そのままでは、実感的であっても漠然・素朴なものに止まることが多く、教育のプロ・教職に就くには不十分である。教育観は普段意識にのぼらないが、普段の思考・実践を無意識に左右する。プロは、間違った教育をしないために、教育観を常に確かで適切なものにしていかなければならない。そのときに役立つのが理論であり、思想や歴史、制度などの個々の知識である。理論や個々の知識を学び、自分の教育観を育てて欲しい。

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