2月24日(日) 曇り時々雪。
タワレコ難波店でロウエル・ジョージの娘、イナラ・ジョージのインストア・イベントに参加した後、フェスティバルホールで開催された忌野清志郎完全復活祭を聴きに行った。
客電が落ちてスライドショーがはじまった。闘病中の清志郎の顔を定点撮影した写真が続く。抗がん剤の影響で髪の毛がなくなり、その顔は俳優の故殿山泰司に似ていると思った。やがて髪の毛が伸びて、自転車に乗る写真になり、東京タワーが見える部屋で清志郎が目覚める映像になった。
「二年間よく眠ったぜ!」
清志郎の復活を祝うイベントの幕開けはそんな感じだった。
マントショーがあり、最初は忌野清志郎 & NICE MIDDLE with NEW BLUE DAY HORNSだけで最近のアルバムの中からの曲を演奏した。目の前で動く清志郎から目が離せない。周りの大盛り上がりをよそにして、僕には実感が全くなかった。これは一体何なのだろう? 不思議な体験だった。
清志郎は2006年の初夏に喉頭癌と診断され長期入院治療することになった。フジロックや日比谷野音のイベントなどすべてのスケジュールがキャンセルになった。秋にすでにレコーディングが終わっていたナッシュビル録音のニュー・アルバム『夢助』がリリースされたが、僕はこのアルバムを頻繁に聴くことはなかった。聴くとよくないことを考えてしまって、どうしようもなく不安になったからだ。
アルバム『夢助』はスティーブン・クロッパーらとレコーディングした作品で、収録曲の「激しい雨」は仲井戸"CHABO"麗市と共作している。この曲の"RCサクセションがきこえる/RCサクセションが流れてる"のラインが僕を打った。正直に言うとそのとき僕はいつかこの曲をライヴで聴く日が来るなんて想像できなかった。
清志郎が抗がん剤治療を止めたのは副作用がひどかったからだという。代替医療の民間療法とサイクリングで体力をつけて、サム・ムーアのブルーノート公演に飛び入り出演したのが2006年の11月。もう一度清志郎がステージに立って歌うなんて、それはもう奇跡としかいいようがなかった。2007年1月31日に清志郎は「札幌市民会館最後の日」というイベントに飛び入り出演した。「トランジスタラジオ」や「スローバラード」や「雨あがりの夜空に」を歌ったという。その次が4月にブルーノートで行われたブルース・ブラザーズ・バンドのライヴに飛び入り出演。僕はその場にいなかったことを悔やんだ。なぜ僕はそこにいなかったのだろう。たぶんそのときに僕は心のどこかで清志郎のライヴを見に行くのだと決心したのだと思う。
そしてついにその日が来たのだった。まるで夢を見てるような気分。目の前で清志郎が歌っているのに、その現実が信じられない。おかしなものだ。「デイ・ドリーム・ビリーバー」のイントロがながれてきたとき、「歌わなくっちゃ」と思った。この曲が僕を夢から覚まさせてくれた。
「いい事ばかりはありゃしない」でチャボが出てきてRCのレパートリーも披露してくれた。清志郎からは灰汁の強さみたいなものが消えてしまったような印象を持ったが、それはこちら側の勝手な思い込みかもしれない。でも清志郎が人生の転換点を迎えたことは事実で、それ故に変わってしまっても誰も何も文句は言えないだろう。
個人的には「スローバラード」がよかった。圧倒的なパフォーマンスだったことは間違いない。NHKの音楽番組『SONGS』で全国的に復活をアピールした清志郎だったが、あの番組で「スローバラード」を歌ったとき、アウトロでの清志郎の表情が真剣で迫ってくるものがあった。それをライヴで体験して、もう僕はそれで十分だと思った。
「Baby何もかも」の曲の導入部だった。厚見玲衣の弾くハモンド・オルガンの調べに乗って、清志郎は自らがんの話をした。今や二人に一人はがんで亡くなること、がん患者の80パーセントは治療で死ぬと実(まこと)しやかにいわれてることなど。「いろいろ実しやかに言われてるけれど、大事なのは夢を信じることだと思うんだ」と清志郎。まるで教会で牧師が説教するように話してこう言った。
「みんなに訊きたいことがあるんだ。愛し合ってるかい? 」
「愛し合ってるか~い? 」
「ア・イ・シ・アッ・テ・ル・カ~イ?」
あの有名なフレーズがこういう状況でオーディエンスに投げかけられたとき、僕はすべてが腑に落ちた気がした。「愛と平和」、そして「夢を信じること」。今まで清志郎の発言として何度となく聞いてきた言葉だが、こんなふうにして問いかけるのかと初めて知った。これはゴスペルの世界だ。なんて凄いんだろうと思った。当然、僕たちは「Yeah!」と応える。その応酬の中で「Baby何もかも」ははじまり、最大の盛り上がりを見せて本編は終わった。
アンコールでは日本のロックのアンセム「雨あがりの夜空」でまた盛り上がり、最後は清志郎のギター弾き語りの「LIKE A DREAM」で幕を閉じた。
■忌野清志郎完全復活祭追加公演
2008年2月24日(日) 大阪フェスティバルホール
1階 Right M列 22番
忌野清志郎 & NICE MIDDLE with NEW BLUE DAY HORNS
plus 仲井戸"CHABO"麗市
忌野清志郎 : Vocal
仲井戸"CHABO"麗市 : Guitar
三宅伸治 : Guitar
中村きたろー : Bass
厚見玲衣 : Keyboards
新井田耕造 : Drums
江川ゲンタ : Drums
梅津和時 : Alto・Soprano Sax
片山広明 : Tenor Sax
渡辺隆雄 : Trumpet
Set List
01 JUMP
02 ROCK ME BABY
03 NIGHT AND DAY
04 ダンスミュージック☆あいつ
05 デイ・ドリーム・ビリーバー
06 いい事ばかりはありゃしない
07 君が僕を知ってる
08 チャンスは今夜
09 私立探偵
10 多摩蘭坂
11 毎日がブランニューデイ
12 コーヒーサイフォン
13 GOD
14 スローバラード
15 激しい雨
16 ドカドカうるさいR&Rバンド
17 キモちE
18 Baby何もかも
Encore
19 よォーこそ
20 雨あがりの夜空に
21 LIKE A DREAM
・画像
左は清志郎とチャボの対談が掲載されているパンフレット。右は開場時に配布された快気祝い。
快気祝いは手ぬぐいでした。