前々回の記事「スウェーデンから学んでいること」に対するしゅとうくんの質問への答え――といっても価値判断の部分を除くと知識はほとんど受け売りですが――を、みなさんに共有していただくために本文にします。
スウェーデンの政府は「大きい政府」か、という質問ですが、
スウェーデン政治ではきわめて地方分権が進んでいますから、「強力な中央集権国家」という意味での「大きな政府」とはいいがたいようです。
しかし、福祉・教育・環境といった公共部門の人員や予算の規模が大きいという意味では、やはりある種、「大きな政府」ではあるようです。
そうすると、日本ではなんとなく「小さい政府がいい政府」という印象があって、スウェーデンについても「大きな政府ではまずいんじゃないか」という反論的疑問が出てきそうです。
それに対しては、以下の神野直彦氏の文章が参考になると思います(改行、行空け、強調は筆者)。
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第二次世界犬戦後、日本では不思議なことに「大きな政府論」が登場してきたことはありません。右から左までのあらゆる政治勢力が政府を小さくしろといってきたのです。
保守政党はそもそも自由主義を主張しているわけですから、政府を小さくしろといっても理屈は通ります。
しかし特徴的なのは、目本では革新勢力までもが、政府を小さくすべきだと主張してきたことなのです。
革新勢力は、減税して小さな政府にするべきだと、戦後一貫して主張してきました。
日本の労働組合は、社会福祉政策であるはずの国民皆保険や皆年金の導入のときにも反対したのです。
反対の理由は、国民から保険料を徴収することは財政投融資の資金を増加させるだけで、独占資本の利益による資本蓄積を促すだけだというものです。
彼らの分析によると、日本は国家独占資本主義です。ですから、国家と独占資本が密約しているという認識の下に、そんな国家は大きくては困ると、一貫して小さな政府を標榜してきたのです。
ヨーロッパの社民勢力のように大きな政府をつくって皆で協力していこうという発想が生まれませんでした。
(神野直彦『痛みだけの改革 幸せになる改革』(p.83-4、PHP研究所)
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レーニン以来(あるいはマルクス以来)、マルクス主義に影響を受けた日本の革新派にもずっと引き継がれてきた「国家=悪」というイデオロギーが、「民主的な手続きによって、よりよい(ましな)国家・政府を作る」という発想を妨げてきたのではないでしょうか(かつて私自身その傾向がありました)。
国家=悪なのなら、当然、「なくせないとしたら、せめてなるべく小さいほうがいい」という発想になります。
そして、小さいとしても悪なので、「なくせないにしても、せめて自分は関わらないほうがいい」という発想も出てきます。
そうすると、永遠の批判者=万年野党ということになるでしょう。
もっと進むと永遠の反抗者・反体制、さらには脱体制ということになります。
しかし、それでは世の中、特に環境はよくならないことは、ここ数十年、私たちが体験してきたとおりです。
それに対してスウェーデンでは、戦後、社会民主党の党首ハンソンが提唱した「国民の家」という国家理念がありました。
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スウェーデン型福祉社会を形容する概念に「国民の家」がある。これは、ハンソンが社会建設のヴィジョンとして提示した概念である。……
「国民の家」とは、胎児から墓場までの人生のあらゆる段階で、国家が「良き父」として人びとの要求・必要を包括的に規制・統制・調整する「家」の機能を演じる社会である。
「国民の家では、誰一人として抑圧されることがない。そこでは、人びとが助け合って生きるのであり、闘い合うということはない。また、階級闘争ではなく協調の精神がすべての人びとに安心と安全を与えるのである。」
岡沢憲芙『スウェーデンの挑戦』(p.76、岩波新書)
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戦後60年あまり、スウェーデンはこうした国家理念・国家理想を追求し続け、相当程度実現しているようです。
遅ればせながら、私たち日本人もそうした国家理想を掲げ直して――聖徳太子の「和の国」という日本初の国家理想は、現代的に言い換えればまさに「国民の家」になると思います――新たな「追いつき追い越せ」に挑戦したいものです。
「経済大国」に挑戦し実現した国民なのですから、「生活大国」にも本気で挑戦すれば実現できる潜在力を持っているはずです。
問題は、発想法の転換だけでしょう。
目先安上がり(に見えるだけ)の「小さな政府」ではなく、強力な協力のための「大きな政府」、あるいは経済・福祉・環境のバランスを取るために必要な適正規模の「中くらいの政府」こそ、近未来私たちの目指すべき政府である、と私には思えます。
ともかく、政府について議論をする場合、問題は大きいか・小さいかという規模以前に、国民すべてのために適切に機能しているかどうかを問うべきだと思います。
みなさんは、どうお考えですか?
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