白樺小舎便り(しらかばごやだより)

北信濃の田舎暮らしの日々

初恋の人に会いにいくような

2013年07月01日 18時23分03秒 | 日記

かみさんはオババ4人組と4日間の東北の旅にでかけて留守。

今回は日曜だけしか休みがない。

農作業と小屋造り、その他様々な用がある。

何をしようか考えた。なにをしても気持ちが今ひとつピタッと来ない。

ならば、思い切って気分転換だ。

かくして、朝4時、いそいそと出かけた。初恋の人にあいにいくようなウキウキした気分で。

 

白馬村から残雪の白馬三山の姿がくっきりと浮かんでいた。

駐車場のある登山口、猿倉に着くと意外にも車は十数台しかとまっていない。

まだ、本格的な登山シーズンではないのだろう。夏場は駐車できないことも多いのだ。

6時から歩き始める。

この道を何度歩いたことだろう。

若い頃からいろいろな時期にまざまな思いをいだいてこの道をたどった。

最近ではほぼ毎年この山に登っている。

自分の体力を測るバロメーターでもある。

山頂直下の白馬山荘までノンストップで登ること。

アイゼン、ピッケル、ストックに頼らないこと。

白馬尻小屋はまだ営業していないようだ。

もう少し季節が進めばこの小屋の少し上から大雪渓が始まるのだが、今はこの小屋の下からずっと雪渓が続いている。

雪渓の上はさわやかな涼しさで、快適に高度を稼げる。

雪渓の上を何人かの登山者が歩いていたが、さすがにみんなアイゼンを使っている。

ちょっと気を抜くとついた足が滑ることがあるが、両足が滑って転ぶことはまずない。

大きなクレバスがいくつもあった。下りは気をつけねばならない。安易にグリセードなどしていると危ない。

夏にはお花畑になるはずの小雪渓の上部も今は雪の中だ。

9時には白馬山荘に到着。

雲上のレストラン『スカイプラザ』も閉店中。

そのまま山頂に向かう。

突然ヘリの音が聞こえ、周囲始めたを何回か旋回しながら白馬山荘の裏手、すなわちぼくのすぐ近くで停止しホバリングしている。

地上には2人の人間。

ヘリの扉が開いて蜘蛛の糸にぶら下がって蜘蛛が降りてくるようにスルスルと隊員が降りる。

映画『岳』の中の救助シーンそのままだ。

ヘリが大きく旋回してまた戻ってくる。

隊員が一人を抱えてスルスルと登って行く。

またたく間に作業が終わり、ヘリが去っていく。

こんなシーンを去年の十月、初雪が降った穂高から唐沢に下る岩場でも見た。

山では遭難が身近にいる。すぐ隣にいる。

稜線はもう雪が消え、色々な花が咲いている。

詳しい名前は知らないけれど、何度となく目にした美しい花たちの楽園がここにある。

高嶺の花というけれど、それは手の届くところにある。

ここでは自分が宇宙のすべてと一体化している。

山頂には3人の先客がいるだけ。

世界遺産に登録された富士山には多くの人がつめかけているという。

だが、どうだ、この静寂は。このすばらしい世界が『世界遺産』という名で蹂躙されることが無いのは幸せなことだ。

 

下りはクレバスに気をつけながらグリセード。

12時に猿倉に帰りついた。