神戸、大阪そして阪神間の“奥の間”といえそうな位置に三田市がありますが、三田米で有名な農業地帯であるとともに大都市のベッドタウンでもあるという二重のロケーションに加えて、さらにもうひとつ、ユニークな近年の町の顔は、現代美術の作家たちがここで活発な制作活動を繰り広げてきているということです。
去年12月に72歳で亡くなった東山嘉事(かじ)さんは三田のその第三の顔(芸術の町)のリーダー格のひとりでした。
見渡すかぎり水田の広がる自然の中にむしろ強固な労働の場所のように建てられた嘉事さんの、今はもう主なきアトリエ。
そこで作家の回顧展(入場無料)が開かれます。
会期は11月11日(日)から25日(日)までの2週間です。
手当たり次第、なんでも作品にしてしまう魔法使いのような美術家でした。
たとえば機械部品の寄せ集めで、頑丈な猛牛が生まれました。
現代文明のガラクタから、イノチのカタチが立ち上がるというわけです。
なかでもみなを仰天させたのは、フムフム族と呼ばれたおびただしい化け物の誕生です。
哺乳類も両生類も爬虫類もみんなごったに混ざり合って、自由気ままに進化(退化?)をたどった大一族のようでした。
どれもハラにイチモツあるような何かトガッた顔つきで、油断ならん雰囲気をプンプン放っているのですが、しかしどこか一箇所がおおらかに抜けていて、クスッと笑えてしまうのです。
鋭い爪を持った凶暴な猫の化け物なのですが、魚の料理だけがどうも苦手で、サバのサシミを供せられるとそのたびに鼻のアタマにポツポツとジンマシンを出すような…。
すばらしい翼をもった勇壮なワシの怪物なのですが、なんのインガか高所恐怖症に生まれていて、パアーッと上昇気流に乗った途端めまいでしょっちゅう墜落を繰り返しているような…。
まあ、もとをたどれば、どの化け物も人間の心にたまったヘドロの中から湧いてきた、そういう由緒ある一族とみてまず間違いないとは思うのですが、人間のやること、どんなに突っ張ってみせたところでしょせんはみんなマヌケなことよ、と作家の高笑いが聞こえるようでなりません。
さてカタカナで「フムフム」と表記するのは、実は美術担当の新聞記者がこの方がわかりよかろうと勝手に始めたことでして、嘉事さんも持ち前のおおらかさで特にクレームもつけずにいたのですが、正確には「不夢不無」です。
夢もなければ無すらもない、とは一体どんな世界でしょう。
エッ、やっぱりあなたもそう思われます?
それは、この、ぼくたちの世界そのもののこと、だって。
で、嘉事さんひとりはこの地上にさんざん魑魅魍魎(ちみもうりょう)のたぐいを残していって、今ごろ天空でゆったりと好きな夢を見ているってわけですな。
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回顧展「不夢不無曼荼羅―東山嘉事の世界」は追悼展実行委員会(代表・吉川周而さん)の主催です。
問い合わせは079.562.3181(中村忍さん)。
専用ホームページは
http://www.k5.dion.ne.jp/~humuhumu/
専用ブログは
http://blogs.dion.ne.jp/mandara/
なおアトリエ展と並行して三田市の次の三つのギャラリーでも東山嘉事さんの展覧会が開かれます。
▽ギャラリーけやき
11月13日(火)―25日(日) 月曜休み
ドローイングを中心に。079.562.9364
JR宝塚線三田駅西口下車・小柿行きバス成谷口下車・徒歩5分
▽ギャラリー・ガラリ
11月11日(日)―25日(日) 月曜休み
不夢不無シリーズを中心に。079.567.2241
JR宝塚線広野駅下車・南に徒歩10分
▽キッチンカフェ・キーラーゴ
11月11日(日)―25日(日) 無休
嘉事さんが刊行したパロディ誌「週刊芸術」シリーズを中心に。079.562.6080
JR三田駅西口下車・徒歩5分