藤田佳代舞踊研究所の第42回目の発表会が神戸文化ホールで開催されました。
42回! たいへんな回数、たいへんな歩みです。
最初のプログラムは藤田佳代さん振付「届ける」。
「東北の地震と津波と原発事故で亡くなった数限りない命たちへ」という副題がつけられています。藤田さんはこの作品を10年上演しつづけるとしています。今年が8年目。
曲は使用せず、「拍踏衆」が手足で打つ拍子と、ダンサーたちが刻むリズムで構成されます。赤い鼻緒の黒塗りの下駄を「手に」履いて、それを打ち鳴らしながら踊るダンサーたち。
作品には小学三年生から参加できるそうですが、年齢が進むにつれて担当するパートが変わっていきます。例えば、はじめ四拍子を踊っていたダンサーが、今は五拍子を担当しているというぐあいに順繰りに踊りが受け継がれていくのです。
幾度か、打ち鳴らされる拍が止み、張りつめた静寂のなかダンサーたちが踊る瞬間が訪れます。そのとき、舞台上の演者と観客、そしてそれを越えて、空間全体を無音の対話が満たす――声なき祈りに満ちる、そんな厳かで神聖な場があらわれるのに私たちは立ち会うのでした。
2本目のプログラムは「ちょっとうれしいことば みつけたよ」。
こちらも藤田佳代さんの振付です。
可愛らしげなタイトルとは裏腹に、時代でいえば、古くは万葉集の大伴家持の長歌の一節(「雨ふらず 日の重なれば…」)から、藤原定家の和歌(「瑠璃の水 にしきの林…」)、与謝蕪村の俳句(「帰る雁 田毎の月の…」)、西脇順三郎の詩(「旅人は待てよ このかすかな泉に…」)など、深い味わいをもった十以上の言葉たちを踊る作品です。
踊りは言葉に近づいたり、離れたり、決して言葉に縛られた踊りではありません。
むしろ、ああ、あの黄色い衣装の小さな女の子みたいに、もう踊りたくて仕方がないという様子の、腕も脚も伸ばせるだけ伸ばし、跳べるだけ高く跳びたい、駆け抜けられるだけ遠くまで駆け抜けたいというあの子たちのために、踊りというのは結局あるんだろうなぁと、こちらも心を躍らせながらみていたのです。
一方で、逆の感想のようですが、菊本千永さん振付の「メリーさんと隠れ家」は、アメリカから送られ、いまは敵国の人形として閉じこめられているメリーさんに、子供たちがお話を語って聞かせるという物語の結構が舞台に求心性をもたらし、とてもうまく作用していると感じさせられました。
ひとたび言葉が与えられれば、私たちはそのように作品をみてしまうのです。そしてそれが(よきにつけあしきにつけ)物語の力というものなのでしょう。
冒頭、槍をもった兵士たちが人形をなぶりものにしようと高く掲げ、取り囲む場面は、そこにはっきりと歴史と物語が交差する象徴的な光景として迫力をもつものでした。
第42回藤田佳代舞踊研究所発表会は2019年10月12日(土)神戸文化ホール(大ホール)で開催されました。
スタッフ 総監督:新田三郎 舞台監督:長島充伸 照明:藤原本子 音響:藤田登 衣装:山下由紀子 藤田啓子 他
今年11月9日(土)には菊本千永さんの「モダンダンスステージⅤ」が東灘区民センター うはらホールで開催されます(17:30開演)。
藤田佳代舞踊研究所のホームページはhttp://www2s.biglobe.ne.jp/~fkmds
42回! たいへんな回数、たいへんな歩みです。
最初のプログラムは藤田佳代さん振付「届ける」。
「東北の地震と津波と原発事故で亡くなった数限りない命たちへ」という副題がつけられています。藤田さんはこの作品を10年上演しつづけるとしています。今年が8年目。
曲は使用せず、「拍踏衆」が手足で打つ拍子と、ダンサーたちが刻むリズムで構成されます。赤い鼻緒の黒塗りの下駄を「手に」履いて、それを打ち鳴らしながら踊るダンサーたち。
作品には小学三年生から参加できるそうですが、年齢が進むにつれて担当するパートが変わっていきます。例えば、はじめ四拍子を踊っていたダンサーが、今は五拍子を担当しているというぐあいに順繰りに踊りが受け継がれていくのです。
幾度か、打ち鳴らされる拍が止み、張りつめた静寂のなかダンサーたちが踊る瞬間が訪れます。そのとき、舞台上の演者と観客、そしてそれを越えて、空間全体を無音の対話が満たす――声なき祈りに満ちる、そんな厳かで神聖な場があらわれるのに私たちは立ち会うのでした。
2本目のプログラムは「ちょっとうれしいことば みつけたよ」。
こちらも藤田佳代さんの振付です。
可愛らしげなタイトルとは裏腹に、時代でいえば、古くは万葉集の大伴家持の長歌の一節(「雨ふらず 日の重なれば…」)から、藤原定家の和歌(「瑠璃の水 にしきの林…」)、与謝蕪村の俳句(「帰る雁 田毎の月の…」)、西脇順三郎の詩(「旅人は待てよ このかすかな泉に…」)など、深い味わいをもった十以上の言葉たちを踊る作品です。
踊りは言葉に近づいたり、離れたり、決して言葉に縛られた踊りではありません。
むしろ、ああ、あの黄色い衣装の小さな女の子みたいに、もう踊りたくて仕方がないという様子の、腕も脚も伸ばせるだけ伸ばし、跳べるだけ高く跳びたい、駆け抜けられるだけ遠くまで駆け抜けたいというあの子たちのために、踊りというのは結局あるんだろうなぁと、こちらも心を躍らせながらみていたのです。
一方で、逆の感想のようですが、菊本千永さん振付の「メリーさんと隠れ家」は、アメリカから送られ、いまは敵国の人形として閉じこめられているメリーさんに、子供たちがお話を語って聞かせるという物語の結構が舞台に求心性をもたらし、とてもうまく作用していると感じさせられました。
ひとたび言葉が与えられれば、私たちはそのように作品をみてしまうのです。そしてそれが(よきにつけあしきにつけ)物語の力というものなのでしょう。
冒頭、槍をもった兵士たちが人形をなぶりものにしようと高く掲げ、取り囲む場面は、そこにはっきりと歴史と物語が交差する象徴的な光景として迫力をもつものでした。
✴ ✴ ✴
第42回藤田佳代舞踊研究所発表会は2019年10月12日(土)神戸文化ホール(大ホール)で開催されました。
スタッフ 総監督:新田三郎 舞台監督:長島充伸 照明:藤原本子 音響:藤田登 衣装:山下由紀子 藤田啓子 他
今年11月9日(土)には菊本千永さんの「モダンダンスステージⅤ」が東灘区民センター うはらホールで開催されます(17:30開演)。
藤田佳代舞踊研究所のホームページはhttp://www2s.biglobe.ne.jp/~fkmds
(キヌガワ/takashi.y)