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ブログ版 シュプリッターエコー

深い、深い、ダンスの夕べ―貞松・浜田バレエ団

2009-10-17 20:19:00 | 舞踊
 貞松・浜田バレエ団の特別公演「創作リサイタル21」を神戸文化ホールで見ました(10月10日)。
 貞松・浜田バレエ団は神戸をフランチャイズに、日本のバレエ・シーンに強烈なインパクトを与え続けている舞踊団です。
 秋恒例の「創作リサイタル」では、近年とくに、現代のバレエ界に世界的な衝撃をもたらしている国際的な振付家の作品を上演して、文化庁芸術祭の各賞を受賞するなど、バレエ芸術の深化にめざましいエポックを築いています。

 今回も、現代に鋭く切り込むオハッド・ナハリン(イスラエル)の「BLACK MILK」(スマドベック曲)、20世紀を代表する大舞踊家ジョージ・バランシン(ロシア)の「セレナーデ」(チャイコフスキー曲)、そして奇才の大家イリ・キリアン(チェコ)の「6 DANCES」(モーツァルト曲)の三つが並ぶという豪華さ。
 偉大な振付家の作品というのは、それぞれ全く違った場所に立ちながら、こんなにも切り立つものか、とほとんどぼうぜんとなりました。

 「BLACK MILK」はひとつの輪の中に群れる者たちと、そこを横切っていく者との交錯を描くようなダンスでした。
 群れる者たちとは多数者のことです。
 横切っていく者とは単独者のことです。
 メジャーな精神を横切っていくマイナーな精神のことも考えました。
 古い共同体のなかで自立をとげ、飛躍をめざす孤独者のことも考えました。
 逆に共同体から追い出されるいけにえの羊の追放のことも考えました。


(撮影:古都英二=テス大阪)

 「セレナーデ」は均整と調和に満ちた、完璧に美しい群舞です。
 女性的なるものが終始、水のように、風のように、精霊のように、そしてとりわけ透明に、舞台を流れ渡っていくのです。
 バランシンは1933年にニューヨークに渡って、活動の拠点をアメリカに移しますが、この作品(1934年)がアメリカでの第1作になりました。
 舞踊家の底知れないデリカシーが現われます。
 日本人を世界で最も繊細な民族のようにいう人がありますが、そんなひとりよがりな思い込みこそすこぶる粗雑な精神から生まれたものだと、このダンスを見れば思い知らされることでしょう。


(撮影:金原優美=テス大阪)

 「6 DANCES」は、鋭い精神とはどのような舞台をつくる精神のことか、それをまざまざと証明する作品です。
 モーツァルトの美しい管弦楽曲「6つのドイツ舞曲」に振り付けられたシャープな動き。
 それはしばしば客席に笑いをもたらす特異な形を表現します。
 モーツァルトの曲で笑わされるという、この稀有(けう)な体験!
 私たちが当たり前のように持っている神童モーツァルトの偶像が、みごとに破壊されるのです。
 そうです、核心を突いたダンスには、いつもなにがしかの破壊力があるのです。
 そしてそれは、もっと新鮮な、もっと生き生きとしたモーツァルト像を創るのです。 
 
 とても刺激に満ちた神戸のバレエの夜でした。

 またこの夜は、貞松・浜田バレエ団の専属振付家、長尾良子さんの「セ・シ・ボン」も上演されました。
 シャンソンの名曲の数々に振り付けられた軽快なダンスでした。

 なお「6 DANCES」については、本ブログの姉妹ページ「Splitterecho(シュプリッターエコー)Web版」に、詳しい論評を掲げています。⇒ http://www16.ocn.ne.jp/~kobecat/

美しい水の匂い―花柳芳圭次の雷船頭

2009-10-03 19:17:00 | 舞踊
 花柳芳圭次(はなやぎ・よしけいじ)さんの歌舞伎舞踊「雷船頭」(かみなりせんどう)を神戸文化ホールで見ました。
 芳圭次さんが主宰する圭柳会一門の舞踊の会でのことです。

 ところは江戸の隅田川。
 いなせな船頭さんがひととき居眠りをしていると、やがて夕立がやってきて、天からカミナリさまが落ちてくるという趣向です。
 と、船頭さんは、女カミナリに化けるの機転。
 荒唐無稽(こうとうむけい)な話のなかに、洒脱(しゃだつ)なからかいとユーモアと、そして存外にしっとりとした情をこまかく畳み込むのです。

 余計なものはいっさいはがして、核心に鋭く切り込むのが、芳圭次さんの踊りです。
 濁りを取った、透明な踊りのなかに、二重、三重、四重の心の動きが、まるで透け見えるように生き生きと現われます。
 舞台を美しい水の匂いが漂ったのも、その澄明(ちょうめい)さのゆえでしょう。

 踊りに川の匂いがありました。
 夕立のにおいがありました。
 舞台いっぱいにいつしか水のにおいが広がっていたのです。

 「雷船頭」で水の匂いまで感じたのは初めてです。

 すると、ここは、神戸です。
 海の匂いが港からのぼってきてホールをひたひたとひたしていました。