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あみものと手仕事と旅の記録

深読み?!『貧しい人々への友愛訪問』②:「貧しい人々」とアメリカの矜持

2017-08-28 11:50:51 | 『貧しい人々への友愛訪問』
読者の方々が本書の魅力や理解を深めていただけるように、共訳書『貧しい人々への友愛訪問ー現代ソーシャルワークの原点ー』の内容・読みどころを少しずつご紹介しています。今回は、本書における「貧しい人々」とは誰か、について(個人的な解釈を多分に含みます。3名の訳者共通の見解ではないことをご了解ください)。

本書は、1880年台からアメリカ東海岸の都市ボルチモアの慈善組織協会で働いていたリッチモンドによって執筆されました。

本書に出てくる貧しい人々は、大きく分けて

1.アメリカの地方から大都市へ移住してきた人々
2.ヨーロッパからの移民

です。
彼らの職業、社会的地位、家庭での役割(夫または妻)、そして人種はいろいろですが、本書で慈善の対象として登場する貧困層は、おおむね上記のとおりです。

とりわけ、「2のヨーロッパからの移民」についての記述からは、移民に対してアメリカ市民としての役割を強く要請するような”圧迫感”があります。この圧迫感が、当時のアメリカ社会全体のものだったのか、リッチモンドの個人的な思いだったのか、明確に判別することはむずかしいですが、要するに「貧しい農民であることがイヤでヨーロッパからアメリカに来たのかもしれなけれど、タダでご飯は食べられませんよ。自由と民主主義アメリカに来たからには、アタマの硬いヨーロッパのままでいてもらっては困ります、わたしたちのやり方に従ってもらいます」という時代的な雰囲気があったことは確かだと思わます。

この、アメリカ式のルールに乗れないのならばここにいなくてよい的な考え方は、わたしが1996年に初めてアメリカでホームステイしたときに感じたこととすごく似ています。1800年台から脈々と引き継がれる、世界のどこにもない民主主義の実験場としてのアメリカの矜持。本書で、この側面に触れるとき、アメリカ・ファーストをゴリ押しする21世紀のアメリカの原点を垣間見る気がするのです。

共訳書『貧しい人々への友愛訪問』(中央法規出版)、予約受付中です。
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