以下は本日発売された週刊新潮の掉尾を飾る高山正之の連載コラムからである。
本論文も彼が戦後の世界で唯一無二のジャーナリストであることを証明している。
彼は、限られたスペースの中で、一文、一文で真相を明らかにする。
彼は名文家としても戦後の世界で唯一無二の作家である。
日本国民のみならず世界中の人達が必読。
見出し以外の文中強調は私。
殺しのお膳立て
一昔も前、このコラムをまとめた本の出版記念会を市ヶ谷でやった。
仕切りは宮崎正弘。
気が付いたら趣意書には発起人の総代表風に「安倍晋三」の名があしらわれていた。
いくらなんでも飛ばし過ぎと言ったら「その方が格好いい」という無責任な返事だった。
それもあってか「ここをぶっ飛ばせば日本の保守論壇は全滅だわな」(政治評論家三宅久之)というほど多くの参集をいただいた。
そんな中、ホントに安倍元首相が登場した。
このコラムの愛読者と語り、こちらは素直に恐縮したものだ。
安倍さんは当時、朝日新聞の執拗な嫌がらせで体調を崩し、第一次内閣をやめたばかりだった。
常軌を逸した安倍攻撃を三宅久之が主筆の若宮啓文に糺したら「社是だから」(小川榮太郎『約束の日一安倍晋三試論』)と答えた。
「安倍の葬式はウチで出す」という有名な件(くだり)がその台詞に続く。
両者の確執は古く、長い。
安倍さんは日本の宰相としては異形だった。ちびでも禿でもデブでもなかった。
長身でスマートで英語もこなし、何より東大出でも官僚出でもなかった。
並みの宰相なら官僚界のしがらみや学閥絡みで籠絡もできた。
言うことを聞かなければ紙面で脅しもかけられた。
しかしそれが安倍さんには通用しなかった。
おまけに両者の政治信条が全く逆だった。
朝日が美土路昌一以来、支那に媚び、北朝鮮にへつらって日本を貶めてきた。
安倍さんはその対極にあった。
朝日が北朝鮮を「朝鮮民主主義人民共和国」と畏(かしこ)まって表記していたとき安倍官房副長官は金正日に日本人拉致を認めさせた。
朝日が田中均と組んで拉致被害者を北に送り帰そうとしたのも阻止した。
一度は社是で安倍内閣を潰すのに成功した朝日が再び本気で「安倍の葬式」を出す気になったのは2012年、第二次安倍内閣の発足前の党首討論会だった。
質問に立った星浩が慰安婦問題をどう処理する気かと横柄に糺した。
答えは「慰安婦問題は星さん、あなたの朝日新聞が吉田清治という詐欺師の話を事実みたいに広めたからでしょう」だった。
全国生中継で朝日がいかに歪んだ性状と虚言癖の持ち主かをズバリ指摘した。
朝日は首相の反撃に気色ばんだが、日本を貶める嘘を30年続けた事実は覆い隠しようもなかった。
木村伊量はクビを差し出し、朝日の部数は面白いほど落ち込んで、記者にはもうタクシーチケットも出なくなった。
その仇を今の論説主幹根本清樹が託された。
根本は考えた。例えば「安倍首相が森友学園に頼まれて国有地を8割引きにした」と報じたら嘘になる。
しかし「首相か昭恵さんが財務省に忖度させたかも」と書けば虚偽報道にはならない。
これなら報道を装って何でも書ける。
それで根本はモリカケ疑惑を書き立てさせた。
せっかく衆参両院で三分の二を取りながら国会審議は疑惑報道で潰され、改憲は一歩も進まない。
自衛隊を明記する加憲まで後退しても、新たな疑惑とかで空転したまま。
結局、山口二郎の「安倍を叩き斬ってやる」の罵声に追われて安倍さんは再度の引退に追い込まれた。
それでも根本は手を緩めなかった。
活動家が元首相を追いかけ、街頭演説を妨害すれば喜んで活字化した。
活動家が警官に規制されたら、それを訴えさせて札幌地裁から「演説妨害は立派な表現の自由」という馬鹿な判決も引き出した。
根本はそれを社説で「安倍元首相の街頭演説で警官は聴衆を規制するな」と妨害をあおった。
紙面で元首相を不実の人のように書き、山口二郎に殺害を喧伝させ、警備陣には街頭演説の聴衆を規制させないよう牽制する。
朝日は山上徹也の犯行が成功するようお膳立てしていたとしか思えない。
根本は自分で謀った通りの展開をどんな感慨で見ていたのだろう。