本日の高住神社の状況です。
◆曇り
◆14℃
端午の節句が近づくと、和菓子店やスーパーマーケットの催事コーナーでかしわ餅が売られ始めます。
おなじ季節商品の節分豆やひなあられとは違い、生もののかしわ餅は節句間際でないと売られないので、めずらしいものになるのかも知れません。
たまたま入った店で、柏の葉で包んだかしわ餅、地元の和菓子屋が卸していたかしわ餅(がめの葉)の2種類が売っていたのでどちらも購入してみました。
かしわ餅という名前から、柏の葉でくるむのがオーソドックスで、その他の葉は地域性によるものとずっと思っていたのですが、実は違うんだとか。
”かしわ”の名は炊し葉(かしは)が由来であり、古代、穀物を葉に乗せて甑(こしき)で蒸したことから、炊事をする=炊ぐ葉が語源。
カシワといえば現在ではブナ科の広葉樹のことを指しますが、かつて調理に用いる葉はすべて「炊し葉」と呼んでいたことから、特定の植物を指す言葉ではなかったようです。
ナラガシワ、ホホガシワ(ホオノキ)といった呼び名が残っているように、敷いたり包んだりと調理に用いた葉は、すべて「かしは」と呼んだわけです。
大嘗祭における神饌献備の用具一覧『神社有職故実図絵』より
* * * * * *
ところで、この辺りではかしわ餅にはがめの葉を用います。
がめの葉とは方言で、標準和名を「サルトリイバラ」と呼ぶ植物のこと。
実物を見たことがないので詳しい説明ができないのですが、どうやら日本全国に自生しており、人間の生活圏に近いところにもあるようです。
実は、全国的にかしわ餅といえばこのサルトリイバラの葉を使ったかしわ餅のほうが多く、ブナ科のカシワで包んだかしわ餅は関東圏の文化だとか。
その説明で分かりやすい文章がありますので引用いたします。
「もともと、里山の林縁に普通に生えているサルトリイバラの葉が広く使われていた。ところが、中世の大都会である江戸では多量の葉を集めるのが困難であり、代替品が必要となった。それがカシワの葉である。ところが、参勤交代で江戸詰めとなった地方出身者には評判が良くない。そこで、カシワの葉が新葉の開芽を待って落ちる性質を捉え、縁起が良い樹という宣伝をした。」
●広島の植物ノート特集 特集-4かしわ餅のまとめ (http://forests.world.coocan.jp/flora/issue/issue-4.html)
コピーライティングを用いて、カシワの葉は縁起が良いと、合理的理由にもっともらしい説明を付加させたわけです。
販売されていたかしわ餅のうち、カシワの葉は大手製菓メーカーさんのもの。
やはり大量に均一な商品を全国的に販売となると、ネーミングにふさわしい葉のほうが説得力があるのでしょうね。
まとめると、かしわ餅は、「カシワの葉で包んだ餅」ではなく、「かしわ餅を包むのに使った葉だからカシワ」であって、カシワという植物名については”炊ぐ”という行為が先にあり、葉に包んで蒸した餅だから”かしわ餅”となり、いくつかある炊し葉のうち、ブナ科のカシワのみにその由来が引き継がれた、という話です。
全国をみるとサルトリイバラは西日本に多く、カシワは関東・中部、そのほかニッケイやハリギリ、ホオノキ、アカメガシワ、ミョウガ、ゲットウ(沖縄)といったように、地方色豊かなかしわ餅の姿があるようです。
同じように呼び名も多種多様であり、共通するのはハレの日だったり、田植え行事やお盆など特別な日に作られる食品ということです。
以前、茅の輪考でチマキに触れましたが、こちらも端午の節句を表す食品であり、”植物で包む”という共通点があります。
身近な植物だったというか、現代人が植物を利用することから離れてしまったというべきか、掘り下げていくと、植物の語源、地域性、文化の発祥など、様々な興味深いものに行き当たり、ますます日本文化が楽しいものになりますね。
参考サイト:『広島の植物ノート』様(http://forests.world.coocan.jp/flora/issue/issue-0.html)
参考文献:『植物と行事 -その由来を推理する-』湯浅浩史