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暮色もて人とつながる坂二月 野沢節子
二月。春も間近だ。気分はそうであっても、まだまだ寒い日がつづく。この句は、そのあたりの人の心の機微を、実に巧みにとらえている。すなわち、夕暮れの坂を歩いている作者は、そこここの光景から春の間近を感じてはいるのだが、風の坂道はかなり寒い。ふと前を行く人や擦れ違う見知らぬ人に、故なく親和の情を覚えてしまうというのである。これが花咲く春の夕刻であれば、どうだろうか。決して、心はこのようには動かない。浮き浮きした心は、むしろ手前勝手に孤立する。自己愛に傾きがちだ。(清水哲男)
【二月】 にがつ(・・グワツ)
1年の2番目の月。如月。月初めに立春となるため、陽暦でも春にはいるが、実際の感覚としては一段と寒気のきびしい季節。
例句 作者
こもりゐて減らす二月の化粧水 宍戸富美子
指吸うて母を忘れし二月かな 板垣鋭太郎
大葬や二月の雨を両頬に 宇咲冬男
音立てゝ砥石水吸ふ二月かな 岸田雨童
詩に痩せて二月渚をゆくはわたし 三橋鷹女
波を追ふ波いそがしき二月かな 久保田万太郎
唇の荒れて熱ひく二月かな 鈴木真砂女
面体をつゝめど二月役者かな 前田普羅
日があれば二月の葦とぬくもれり 蓬田紀枝子