竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
自得の100句が生涯目標です

奥歯あり喉あり冬の陸奥の闇 高野ムツオ

2018-11-11 | 


奥歯あり喉あり冬の陸奥の闇 高野ムツオ


平安時代に征夷大将軍坂上田村麻呂に攻められた東国の夷(えびす)の首領悪路王は、
岩手県の平泉から厳美渓に通じる途上にある達谷窟(たっこくのいわや)に籠って
最後まで屈せずに戦い遂に討たれる。
悪路王などというおどろおどろしい名を付けたのも錦の御旗を掲げた側。
本当は、気は優しくて力持ちの美男子だったかも知れぬ。
ドラマの中のキムタクやブラピのように。
皇軍の名のもとにマイノリティを
「征伐」していった歴史の暗部が陸奥(みちのく)には充満しているのだ。
夷やアイヌやインディアンや、その他多くの被征服者の苦しみや哀しみを、
「大東亜戦争」に敗れた僕等日本人は
ようやく痛切に感じることができるようになったのではないか。
それまでは世界の「征夷大将軍」たらんとしていたのに。
権力の合法的暴力や大国の偽善的エゴは今も世界に満ち満ちている。
世界中の「みちのく」の冬の闇の中で、
顔を失った口の中の奥歯が呪詛を呟き、頭を吹き飛ばされた喉が今日も叫んでいる。
「別冊俳句・現代秀句選集」(1998・角川書店)所載。(今井 聖)

冬めくや坂のなかほど饅頭屋 たけし


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