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胎児いま魚の時代冬の月 山田真砂年
胎児は十ヵ月を過ごす母胎のなかで、最初は魚類を思わせる顔から、両生類、爬虫類を経て、徐々に人間らしい面差しを持つようになるという。これは系統発生を繰り返すという生物学の仮説によるものであり、掲句の「魚の時代」とはまさに生命の初期段階を指す。母なる人の身体にも、まだそう大きな変化はなく、ただ漠然と人間が人間を、それも水中に浮かぶ小さな人間を含んでいる、という不思議な思いを持って眺めているのだろう。おそらくまだ愛情とは別の冷静な視線である。立冬を迎えると、月は一気に冷たく締まった輪郭を持つようになる。秋とははっきりと違う空気が、この釈然としない胎児への思いとともに、これから変化するあらゆるものへの覚悟にも重ってくる。無条件に愛情を持って接する母性とはまったく違う父性の感情を、ここに見ることができる。〈秋闌けて人間丸くなるほかなし〉〈虎落笛あとかたもなきナフタリン〉『海鞘食うて』(2008)所収。(土肥あき子)
沖波の命の尖り寒月光 たけし
寒月光やさしい嘘の見透かさる たけし
上弦の冬の三日月夜想曲 たけし
ガラス窓結核病棟冬満月 たけし
透きとうる女の鎖骨寒月光 たけし
夜勤明け冬満月のうすつぺら たけし
煙突と冬三日月の相寄りし 岸風三楼
寒月に水浅くして川流る 山口誓子
寒月の山を離れてすぐ高し 永方裕子
背高き法師にあひぬ冬の月 梅室
寒月下あにいもうとのやうに寝て 大木あまり
妻遅し冬の三日月玻璃の隅に 加畑吉男
同じ湯にしづみて寒の月明り 飯田龍太
寒月が鵜川の底の石照らす 栗田やすし
冬の月寂寞として高きかな 日野草城
冬の月より放たれし星一つ 星野立子
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