時計屋の微動だにせぬ金魚かな 小沢昭一
さしたる蔵書もない(失礼)吉祥寺図書館の棚で、俳優の小沢昭一の句集『変哲』(三月書房)をみつけた。なぜ、こんな珍本(これまた失礼)がここにあるのかと、手に取ってみたら面白かった。「やなぎ句会」で作った二千句のなかから自選の二百句が収められている。この作品は、手帳にいくつか書き写してきたなかの一句だ。古風な時計店の情景ですね。店内はきわめて静かであり、親父さんも寡黙である。聞こえる音といったら、セコンドを刻む秒針の音だけ。金魚鉢の金魚も、静謐そのもの……。一瞬、時間が止まったような時計店内の描写が鮮やかである。うまいものですねえ。脱帽ものです。(清水哲男)
【金魚】 きんぎょ
◇「和金」 ◇「琉金」 ◇「出目金」 ◇「蘭鋳」(らんちゅう) ◇「丸子」(まるこ) ◇「尾長」 ◇「獅子頭」(ししがしら) ◇「錦蘭子」(きんらんし)
金魚は鮒の養殖変種。もともと中国から輸入された鮒がその後日本で品種改良されたもの。和金、出目金、琉金、蘭鋳など多数の種類があり、今では海外にも輸出されている。天秤を担いだ金魚売り、夏の夜店にならぶ金魚店と金魚すくい、涼しげな金魚鉢など、観賞されるだけでなく、多くの歌に詠まれている。
例句 作者
蘭鋳や漁夫に飼はれて静かなり 有馬朗人
金魚大鱗夕焼の空の如きあり 松本たかし
いきいきと灯を身のいろに夜の金魚 渡辺恭子
淋しくて金魚たくさん飼ひにけり 館岡りそ
寝支度の金魚がひとつ泡を吐き 本庄登志彦
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