竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
自得の100句が生涯目標です

一舟もなくて沖まで年の暮  辻田克巳

2018-12-09 | 


一舟もなくて沖まで年の暮  辻田克巳

見はるかす海原には、「一舟(いっしゅう)」の影もない。普段の日だと、どこかに必ず漁をする舟などが浮かんでいるのだが、今日は認めることができない。みな、年内の労働を終えたのだ。いよいよ、今年も暮れていくという感慨がわいてくる。句の要諦は、むろん「沖まで」の措辞にある。「年の暮」の季語は時間を含んでいるので、四次元の世界だ。その時間性を遠い「沖まで」と、三次元化(すなわち、視覚化)してみせたところが素晴らしい。つまり、意図的に時間を景色に置き換えている。作者は、見えないはずの「年の暮」の時間性を「沖まで」と三次元的に表現することにより、読者にくっきりと見せているのだ。ここで、読者は作者とともに遥かな沖を遠望して、束の間、ふっと時間を忘れてしまう。そして、またふっと我に帰ったところで、あらためて「年の暮」という時間を噛みしめることになる。へ理屈をこねれば、時間を忘れている束の間もまた時間なのだが、この束の間の時間性よりも、句では束の間の無時間性、空白性を訴える力のほうがより強いと思う。時間を束の間忘れたからこそ、あらためて「年の暮」の時間が身にしみて感じられるのである。「俳句界」(2003年1月号)所載。(清水哲男)

【年の暮】 としのくれ
◇「歳晩」(さいばん) ◇「年末」 ◇「歳末」 ◇「年の瀬」 ◇「年の果」 ◇「年の終」 ◇「年の残り」 ◇「年尽く」 ◇「年果つ」 ◇「年つまる」

12月も半ばを過ぎると、いよいよ正月の準備が始まり、年の暮の実感が生まれる。一年の節目としてのあわただしい暮しの中で、年を惜しむ心境や新年を待つ心持のないまぜとなった気持ちが重なる。

例句              作者

年暮るる振り向きざまに駒ケ獄 福田甲子雄
歳晩やものの終りは煙立て 能村登四郎
路の辺に鴨下りて年暮れんとす 前田普羅
年くれぬ笠着て草鞋はきながら 芭蕉
映すものなき歳晩の潦 永方裕子
うつくしや年暮きりし夜の空 一茶
小鳥屋は小鳥と居たり年の暮 林 翔
小傾城行きてなぶらん年の暮 其角
下駄買うて箪笥の上や年の暮 永井荷風
拍手してみんな留任年の暮 松倉ゆずる

人込みや病む人もいて年暮るる たけし

年用意喜寿も傘寿もまだ余生 たけし

線香を点してしまう年用意 たけし


コメント    この記事についてブログを書く
« 冬薔薇を揺らしてゐたり未婚... | トップ | 遠しとは常世か黄泉か冬霞 ... »

コメントを投稿

」カテゴリの最新記事