温故知新~温新知故?

音楽ネタが多いだろうけど、ネタのキーワードは、古きを訪ねて新しきを知ると同時に新しきを訪ねて古きを知るも!!

abさんご-黒田夏子 読了

2013-03-16 20:42:48 | 

abさんご読みました。読みたくて日本から買ってきて、楊令伝読んでる途中ですが息抜きみたいにして読んだ。
ネット上にも、賛否両論あふれています。
まあ、こんな読みにくい小説は新鮮で、怖いもの見たさ的な興味で読みました。でも振り返ると今の小説ってなんか食傷気味でどれも、感想は「まあ、こんなもの」という感じなので、この読後感も、同じといえば同じ表現になる。
アマゾンの書評でも賛否両論。でも否定する方は読む気にならないという感じで、読んでいないのでそれはルール違反だろうって感じかな。確かにエンターテインメントなので読む気がしなければそこでオミットで全く正しい。私はそこに興味を持ち何とか読んだ。読みにくいといってもそこそこ大きな活字で80ページほどのものなので、毎日1時間足らずでも1週間くらいで読める。
Amazon.co.jp: abさんご: 黒田 夏子: 本
誰がほめた、誰が推薦した、そんなことはあまり問題にはしていない。もちろん芥川賞をとってくれなければ出会えなかったのだが。この作品、作風に相性が合った私としては、「選んでくれてありがとう」という気持ちだ。
読みにくい場合は、縦書きの方から読むといいかもしれない。横書きへの足がかりになるかもしれないから。もちろん、無理して読むこともないのだが…私は好きだ。感覚的に神経が喜んでいる。

下のサイトに詳しく解説されている。
この文章の下に上げた特徴によって、他の文学作品にはない楽しみが増えていることに自分は気がついた。主語がないし、固有名詞がないので、感情移入が難しい。すなわち文章自体が誰の言葉かが不明。主人公でもない、大人でもない、子供でもない、第3者でもないのだ。これは新しい!!。
芥川賞受賞作「abさんご」の古くて新しい魅力 - WEBRONZA+文化・エンタメ - WEBマガジン - 朝日新聞社(Astand)
蔵書を戦火から守るために引っ越した海辺の小さな家では、「家事がかり」と表される家政婦が父親と結婚、その存在によって、家族のしきたりから家の装いや庭、家計、所有までもが徐々に牛耳られていく過程を描く。同時に、四季の移ろいや家の情景も鮮明に蘇らせている。

カタカナは一切出て来ない。

 また、蚊帳を「へやの中のへやのようなやわらかい檻」、傘を「天からふるものをしのぐどうぐ」と記すなど、既成表記から自由な、みずからの実感のこもった言葉で表している。

さらに言えば、固有名詞を一切使わず、主語は極力排し、主格は「~する者は」「者の」で示す言い回しが頻出する。

 ひらがなの多用、主語の省略、こうした主格の表現、と並べてみて想起されるのは、日本語の文語体である。

下にあるように読みにくいけど、なれると結構すんなり読める。これに慣れた後は縦書のいつもの小説を読むのに戸惑いがかすかに生まれるくらい。結構、このような表現が本質的欲求に合っているのかもしれないと思うくらい。
芥川賞「abさんご」著者が語ったこと | ニュースのフリマ
高樹のぶ子氏が「最初は苛立つだろうが、おそらく後半では最初の数倍のスピードで読み進むことが出来るだろう」と書いたように、入り口を突き抜けると、舞台設定とテーマがおぼろげながら分かってきて読みやすくなると個人的にも実感した。

下の著者の意見は、全く私も同感という感じだ。
文学作品の言葉は一語一語をたどっていただきたい。(ひらがなが多いと)走り読み、飛ばし読みができないので、いやでも一語一語、たどっていくだろうと。

何度も読みなおした。普通の小説の倍の時間が1ページ読むのに掛かる感じ。
テーマとか主張のある作品ではない。何か伝達したいこととか、主張したいことは、ないと言っていい。作品全体を受け止めていただく以外にない。

全体に情景が目に浮かんぶ感じ、これははっぴえんどの松本隆の歌詞のような感じ。私は好きです。小説はある程度情景が浮かぶという要素が、私が好む小説には必須の条件だ。時にはやりすぎの小説もある白鯨とか。。
「天からふるものをしのぐどうぐ」は「傘」。傘なら傘と言えばいいというよりも、回りくどいけれど、モノの名前を用途とか材質で言った方が元の言葉に近い。「やわらかい檻」は「蚊帳」を意味する。(作品では)「蚊帳」を言いたいのではなく、「やわらかい檻」を言いたい。
 

これは面白い、私は英語でコミュニケーションを取らざるを得ない時を多く経験しており、またそれを他の仲間に強いるときもあって、その際に、英語が不得意な人間というか英語にハードルを感じる人間は、日本語の表現したい事象を単語そのもので日本語から英語に置き換えようとして難しくしているのに何度も遭遇した。そういう時私のアドバイスは「出張」であれば、出張という直訳の単語を探すのでなく、主語と動詞で「仕事で自分の会社から離れた会社や場所などへ行く」などと中学生でも知っている単語で回りくどく説明すればコミュニケーションはとれるし、相手は単語を教えてくれる。下手に和英辞書で調べて、その単語を使うと、かえって誤解を生むということを嫌というほど経験してきた。
1000字程度で(紙面の)見渡しがきかないと、自分の文章の流れがつかめない。400字は出版するのに便利なもの。

これは経験がないからよくわからないが、わずかな論文投稿の経験から判断して400字詰め原稿用紙というのはなんとも扱いにくいシロモノだというのはよく分かる。
最後に各選考委員の選評を示す。なかなかオモシロイと思った意見を引用したが、その他も面白いのでリンクを参考にして欲しい。
黒田夏子-芥川賞受賞作家-148KN
川上弘美 ○ 19 「この家庭に入りこんでくるいやらしい女に対して、あまりに元々の家の住み手が無批判すぎません? などと思う自分は、卑俗なのかなあと不安になったりもしつつ、やはりここにある日本語はほんとうに美しいなあと、うっとりしたことでした。」「(引用者注:「獅子渡り鼻」とともに)○をつけました。」
村上龍 ● 54 「推さなかった。ただし、作品の質が低いという理由ではない。これほど高度に洗練された作品が、はたして新人文学賞にふさわしいのだろうかという違和感のためである。」「その作品の受賞に反対し、かつその作品の受賞を喜ぶという体験は、おそらくこれが最初で最後ではないだろうか。」