田中雄二の「映画の王様」

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『クリムゾン・タイド』

2020-10-19 08:10:07 | ブラウン管の映画館
『クリムゾン・タイド』(95)(1995.7.31.ブエナビスタ試写室)
 
   
 
 原子力潜水艦を舞台に、核ミサイルの発射ボタンをめぐる艦長(ジーン・ハックマン)と副官(デンゼル・ワシントン)の対立を描く。
 
 この映画の宣伝文句は「冷戦は終わっていない」。事実、ソ連崩壊後の政情不安、ロシアからの核物質の流失などもあり、そうした意味では、現実的な側面も持ち合わせているとも言える。
 
 ところが、ワシントンとハックマンは頑張ってはいるのだが、トニー・スコットの監督術がまたしてもいま一つで、一触即発状態という緊迫感が画面から伝わってこない。これを見ると、同じく潜水艦内を描いた『Uボート』(81)のウォルフガング・ペーターゼンはすごかったといまさらながら思わされる。
 
 もっとも、この対立する艦長と副官という構図はエドワード・ドミトリク監督の『ケイン号の叛乱』(54)の現代版であり、軍隊の曖昧さという点では最近のロブ・ライナー監督の『ア・フュー・グッドメン』(92)にも似たところがあった。つまりは、アメリカ映画の常套手段に、今の政情を巧みに取り入れたとも言えるのだ。
 
 ところで、ハックマンといえば、冷戦終結間際に作られた、締まらない米ソのスパイ合戦を描いた『ロシアン・ルーレット』(91)に主演していた。あの映画のあまりの緊張感のなさを見て、「あー本当に冷戦は終わったんだなあ」と実感させられた覚えがある。
 
 その後も、ハリソン・フォード主演の「ジャック・ライアン」シリーズなどでの描かれ方の変化を見るにつけ、冷戦はますます遠くに去った感があったのだが、新たにこの映画が出てくるということは、冷戦終結は表向きであって、表に表れない分、実はさらに恐ろしい事態になっているのでは…という心配も浮かんでくる。
 
 とはいえ、少々うがった見方をすれば、ソ連という仮想敵国を失ったアメリカが、薄くなった軍隊の存在をアピールしたいから、こういう映画が出てくる、とも言えるのかもしれない。いずれにしても、ボタン一つで核戦争が起きる状況に何ら変わりはないということだ。
 

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