硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

恋物語 76

2021-07-19 20:27:59 | 日記
ゴールを確認した後、目を閉じて深呼吸。スタートの合図を待つ。
「セット」のコールが掛かると、スターターがトリガーを引く瞬間が感覚的にわかった。
思い通りフライングギリギリのスタートが決まり、集団から頭一つ抜きに出てた。
2~3歩進むと、歓声や時間、風を切る感じや、身体の重ささえも消えて、気が付けばゴールまで駆け抜けていた。
トラックで呼吸を整えてると、スタンドから歓声が上がった。
記録は12秒00。
一年生なのに、地方大会の新記録となって、凄くうれしくて、インターハイもイケると思った。
でも、決勝ではその走りができなくて、結果は9位。悔しい思いだけが残った。

「懐かしいね。覚えてるよ・・・。あの頃は、100mが全てだったから。けど、その時って、ソフィアは中三でしょ。何で知ってるの。」

「あの準決勝。私、スタンドから見てたんです。」

「えええっ!! 」

本当に驚き。スタンドの人影は見えてたけど、その中にソフィアがいただなんて。
彼女は私のリアクションを見て笑っている。なんか恥ずかしいじゃん。

「その日は、高校のレベルってどんなものかなていう気持で見に来てたんです。そして、それが、たまたま準決勝だったんです。レースが始まると、あすかちゃんがスタートからどんどん加速していって、あの時のあすかちゃんのフォームがとても綺麗で、忘れられなくて、一緒に走ったら楽しいだろうなって。それで、あすかちゃんのいる高校へ行こうって決めたんです。」