硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

恋物語。 79

2021-07-22 19:12:30 | 日記
「わかりました。じゃあ、最後に一つだけ聞いていいですか。」

「一つだけだよ。」

「進学しますか? 進学したら、また陸上始めますか? 」

まさか、また、追いかけてくるつもりじゃないだろうな。
漠然と決めた進路だったから、入学したらどうしたいかなんて考えてなかったし、まして、陸上なんて頭の片隅にもなかった。
けど、環境も変わるし、今なら、肩の力も抜けてて、楽しんで自己ベストを更新できるかもしれない。そう考えると、トライする事も悪くないな。

「う~ん。そうだなぁ。トライしないっていう理由はないな。けど、大学が受かればの話だし・・・。まぁ考えておくよ。」

「じゃあ、進学して陸上始めたら、真っ先に連絡ください。」

「まさか、追いかけてくるつもり? ソフィアは頭いいんだから、海外の大学も狙えるでしょ。きっと両親が許さないし、もったいないぞ。」

「そんなの大きなお世話です。私は私の道を行くのです。」

ちょっと拗ねた感じで、それでも、きっぱりと自分の意志を伝えてくる。年下とはいえ、尊敬してしまう。

「わかったよ。じゃあ、進学決まって、陸上始めたら必ず連絡する。」

「絶対ですよ。」

「嘘つくもんか。」

私達は上着を着て、帽子を被ると、席を立ち、「サイゼリア」を出た。もちろん私のおごりだ。
外は冷たい風が吹いていて、思わず首をすくめる。仕事帰りの人達の流れの中に入ってゆくと、ソフィアは左側について、私の腕に腕を回した。
迷子にならないように一生懸命ついてくる子供みたいに。

「あすかちゃん。」

「なに。また質問? 」

「うん。」

「なに。」

「・・・・・・あすかちゃん。好きな人。いるの? 」

「そんなのいるわけないじゃん! 」

「そっか。」

「なに。」

「じゃあ。」

「じゃあ? 」

信号が赤になる。横断歩道の前で立ち止まると、ソフィアは私の腕を引き寄せ、自分のマスクを顎まで下すと、左手で私のマスクを下げて、凄く自然に唇を重ねてきた。
一瞬の出来事で、何が何だかわからなかったけど、ソフィアのキスは柔らかくって優しくて暖かくって、つまらない男達よりぜんぜんよかった。

周りの人が見てるよ・・・・・・。でも、まっ、いっか。
私も目を閉じて、ソフィアと気持ちを重ねる。

唇が離れると、不思議と、もう少しって思う自分がいた。
ソフィアも、はにかんでた。