東北旅行 最後の日になった。
雨は上がり 青空が見えている。
紅葉はここも今年は遅れているようで この週末が見ごろになるだろうとのことだった。朝から渓谷沿いの湯めぐりをした後 花巻に出て 宮沢賢治の世界に浸ってこよう。
花巻駅に カーナビをセットして花巻市に入ると すぐに 「宮沢賢治詩碑」という案内が目に付いた。
宮沢賢治のゆかりの地らしく いろんなモニュメントや「同心家屋」と名づけられたかやぶきの家などがあった。同心家屋の意味は 歴史に疎い私はよく分からないが 歴史的遺産のようだ。
案内に従い 歩いていくと 宮沢賢治が住んでいた屋敷跡地で 羅須知人協会跡地でもある敷地内に 大きな石の詩碑があり
「アメニモマケズ」の詩が 高村光太郎の字で刻まれていた。
賢治の死後3年後に作られたものだそうだ。
誰もいないと思っていた その薄暗い敷地に立っていると どこからともなく 小さい小さい音でメロディが流れているのに気がついた。
宮沢賢治が作った「精神歌」で今は花巻農業高校の校歌になっている聞き覚えのある曲だ。どこから聞こえてくるのか不思議に思い きょろきょろ見回すと 敷地の隅のベンチに腰掛けて 80歳は過ぎていると思われる小柄なおばあさんが北上川を見下ろす方を向いてハーモニカを吹いているのだった。
それが その空気の中に溶け込んで なんともなつかしいような響きである。そばに行って声をかけると 控えめなかわいいおばあさんで 宮沢賢治を敬愛しているのが一目で分かる。この詩碑の前で毎年9月21日に全国から賢治ファンが集まって 賢治祭が行われること。「自分」は当日の大勢の人の中には 足が不自由なので来ないが ここでハーモニカを吹いていると近所の迷惑にならないし 賢治さんのことを思うことが出来るので今日は久しぶりに出てきたこと。花巻農業高校の生徒は偉大な恩師を敬い その伝統校に学ぶことを誇りに思い その名に恥じないような生き方を常に心していること。今年は「下の畑」に小学校の生徒が白菜の植え付けをしたこと。 他に「賢治さん」のことを親しみを込めて ゆっくりと あれこれ話してくださって また 杖を突きながら ゆっくり自宅の方に帰っていかれた。
賢治の心が私の心の中をも通り抜けて行ったような気のするひと時だった。
北上川 「イギリス海岸」、早池峰山、胡四王山 「下の畑」 「賢治の自耕地」 などを望むこの高台を降りて 胡四王山にある宮沢賢治記念館を訪ね その生涯や足跡 多岐にわたる多くの資料や陳列品を見、音楽を聴き 宮沢賢治の世界で心が洗われたような思いがした。
近くにある 「注文の多い料理店 山猫軒」で「山猫雑炊」を昼食とし 夕刻の航空便に遅れないようにひたすら仙台に戻った。