また、司法試験制度を変えるという。受験回数制限を3回から5回に増やし、受験の機会を拡げて法曹離れを防ぐというのです。この迷走ぶりはいったいなんだろうと思います。こんなことしていて将来、法で裁いたり、法を守ったりする専門家を養成できるのでしょうか。
受験回数を増やすというが、そもそも回数を制限することに問題があったのです。受験失敗を繰り返し、社会に出られなくなってしまう、いわゆる「司法試験浪人」をなくすことが目的だといいます。この国は、いつから(ずっと前から?)個人の生き方にまで節介を焼くようになったのでしょうか。
そういうことを改革するのが司法大学院の創設ではなかったか? 当初は、大学院修了生の70~80%が合格できる制度を目指していたはずでした。しかし、実態は合格率20%台まで落ちて、志願者を落胆させました。単に落胆させただけではありません。中には、いったん社会に出てから法曹を志して来た人もいます。それが合格率低下によって、支払った高い授業料と、その間に社会で働いて得られるはずだった収入や経験、出会い、チャンスを犠牲にした「逸失利益」の代償は、はなはだ大きいといえます。
「落ちるのは本人の努力が足りないんだから、そんなことまで責任は取れない」と言ってしまって済む話ではありません。もとはと言えば、試験が難しすぎて受験を諦め一般社会に流れていく優秀な人材を引き留めるはずの司法大学院創設だったわけです。試験に合格しないのは、本人の責任だと言っている場合なのか。明らかに矛盾しています。
だいたい、試験が難しいということと、頭脳が優秀であることとは一致しないということぐらい、当局の人間はとっくにわかっていたからこの制度をスタートさせたはずなのに、そのうち「合格者のレベルが落ちる」などと言い出して、合格率を徐々に引き下げ始めました。それは教える側と制度に大きな問題があるのでは、と考えたくもなります。
大学入学試験はじめ資格試験一般は、理解力、暗記力など、能力のほんの一部しか試されません。そうした能力も必要ですが、その部分に偏重して難しくさせてきたのが問題なのです。それを改めて、優秀な人材を法曹界に入れるのが当初の目的だったのです。
それに、受験回数の制限というのは意味がありません。司法浪人となってしまい社会に「復帰」できなくなる人を救済する措置というが、まったく笑えません。受験を志すのも続けるのも、またやめるのも、そんなのは本人の意思以外ありえません。そんなことまで国がかまうというのは、合格後に司法に携わる人間が、国や誰かの言いなりになるということを意味するものです。
現在では、司法大学院を修了してもすぐに受験せず、さらに受験勉強を重ねてから本試験を受ける「受け控え」組が目立っているそうです。また受験者も経済的事情などから大学院に行けない人が受ける「予備試験」組が「大学院修了」組の数を逆転したとのことです。だから、予備試験についての見直しも図るという。これはまったく本末転倒で、大学院制度そのものの改革とはき違えています。
■「紙の中の知識」から脱け出せ
大学入試、入社試験、資格試験など、一般に難易度の高いと言われる試験に合格するほど、優秀と見られるのが日本の風潮です。しかし、それは単に「一次元」「二次元」の世界でしかありません。自分と紙(参考書、テキスト、テスト用紙)の関係(一次元)、自分と講師との関係(二次元)の知識でしかありません。要するに紙の中だけの「紙きれの知識」でしかないのです。
そのような基礎次元の知識を試されて、それが難関だからといって合格しても「三次元」「四次元」での社会では通用しません。実社会では、問題解決力、想像力と創造力、論理力、表現力、発想力、分析力、調査力、開発力、構築力、指導力、ネットワーク力といった能力が必要とされます。個人にとっては、人間と人間、人間と組織や社会との関係があり、個人や人種にはそれぞれ感情・意思・信仰・歴史など複雑な環境や事情が絡んでいます。つまり、そういう意味での複次元的(三次元・四次元)な世界では、単に「紙切れ」の知識だけで問題は到底「解答」できるものではありません。そういうことに対処できる法律家を育てるための司法大学院制度だったはずです。
司法試験に合格したというだけでは、合格者の将来や収入、進路が約束されるというものではありません。そんな基礎レベルの能力を試す段階で「質を落としたくない」などと考えていたずらに難関にしたり、人材がいなくなるからと難易度を緩めたり、本来の試験から予備試験に受験生が流れるから予備試験制度を変えようとか、本質から外れたことばかりしています。こういう人たちもやっぱり、「紙切れの知識」だけでやってきた人たちなのでしょう。そろそろ、そういった意識から解き放たれなければ、法曹界にかぎらず、日本はダメになっていくのではと、ひじょうに危惧されます。
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