さざえのつぶやき

音楽活動を中心に、日頃の思ったこと感じたことを日記のように綴っていこうと思います。

あなたを初めて抱きしめた夜に

2008年08月23日 | 下手の歌好きソングライターのつぶやき
彼と出会ったのは、音楽雑誌「バンドやろうぜ!」のメンバー募集コーナーに、僕が「アコースティックを中心としたバンドを・・・」と募っていたのがきっかけだった。 当時、僕は結婚して一年が経った頃の27歳、彼も同じ歳で、大阪の枚方に住んでいて、仕事のルート営業の中に「奈良を担当する日」があり、毎週土曜日になると午前中で終わらせた仕事のまま、当時、僕が住んでいた大和高田市のマンションにギターを持ってやってきた。 出会う前に送ってきたデモテープの声は、とても美しく、やさしく、「徳永英明」タイプの人物像を思い浮かべていたのだが、実際会った時のギャップを思い出すと今でも笑ってしまう。

彼の元には僕の代表曲として「レールの途中」「生まれて今日まで君にたどり着くまで」が入ったデモテープが送ってあって、「レールの途中」のアドリブギターソロを聴いてえらく衝撃を受けたらしく、それまで曲には「間奏」なんて必要ないと思っていたらしい・・・そして会って2回目の音あわせの時には、あのアドリブソロを完コピしてきたのだから驚きまくった。

それから彼には、簡単な「なんちゃってペンタトニックスケール」を教えたものだから、それ以後の彼の楽曲には、僕もそう弾くであろうアドリブギターが入ることになる。
彼は声が美しく、歌が上手かった。 そして作ってくる曲のメロディも、僕が一番好きなコード進行で、コーラスの感性も似ていた。
互いの曲に互いのアレンジを加えていく作業・・・彼の曲には僕がハーモニーとギターソロ、僕の曲には彼のハーモニーとギターソロ・・・そうやってお互いが、お互いの曲を調理しあって、それまでのただの弾き語りだった楽曲が、すばらしい別の楽曲へと姿を変えていった。

ある日の土曜日、いつものようにギターを抱えた営業マンは、僕の部屋にあがるなり「また出来て~ん、これ聴いてみて~」と笑みを浮かべながらもってきたカセットテープ・・・「あなたを初めて抱きしめた夜に」・・・それは彼のオリジナル曲の中でもダントツの出来だった。
それはまさしくパッヘル・ベルの「カノン」のようだった。 そしてこの楽曲が出来たいきさつを彼は笑いながら教えてくれた。
それを知る僕には、あの歌詞のすべてが解釈できるし、「おいおい、ちょっと待てよ~」と苦笑いするいきさつは今もなお僕の胸に秘めたままである。

彼の亡骸に会いに行く途中、当時のバンドメンバーは、まるで鎮魂曲のように流れるこの曲を、車の中で聴きながら涙していた。
「Yさん、ほんまええ曲いっぱい残していかはりましたね・・・」
「あんなに冷血なひとやったのに~(笑)」
「ほんまや~こんな嘘書いて、歌ったらあかんわ~(笑)」
「でも、口ではあんなんやけど、ほんま心底やさしい人間やってんなあ・・・。」
「・・・・・・・・・・。」

この「あなたを初めて抱きしめた夜に」は、僕と彼をつなぐ心の糸だ。
彼の亡骸に向かって勝手に約束した・・・俺が歌い続けていくよと・・・
そしてたくさんの人にも知ってもらい歌ってもらうことで、彼がこの世に存在したという事実を、何年も何十年も語り継がれていけばいいなと思った。 そしてそれが唯一、僕が彼の死に至るまでの、「何か・・・」を知り得なかったことに対する、せめてもの彼への気持ちでもあり、悔しさの克服でもある。

「あなたを初めて抱きしめた夜に」

悲しい恋の歌・・・愛しても恋してはいけない・・・せつない歌。




  ※歌ってくれてありがとう・・・そっさん、そしてゾロさん。

   これからもよろしくお願いします。







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