「ブナの木通信」 『星座87号』
(目覚めて耳に感じる感覚の歌〉
夜明けは不思議なもの。覚めやらぬためか耳が聞こえるか否かと錯覚にとらわれる。音が聞こえぬ訳はない。それを作者は「音なき」と捉えた。ここが効いている。
(ビクトリア滝の轟音の歌)
ビクトリア滝。世界最大の滝である。その音たるやすさまじかろう。それを端的に捉えた。固有名詞も活きている。
(雪のあとの空気の歌)
勢いのある歌だ。南極の雪は、太古の空気を閉じ込めているとも聞く。降雪のあとは、すべてが新しくなっているようにも感じる。そういう感覚を詠った作品だ。
(焼け跡に葡萄の苗を買った回想の歌)
これは東京の国立。敗戦直後を回想した。戦争で打ちひしがれた時代。「葡萄稔れ」の表現に明日への希望が窺える。
(戊辰戦争の殉難碑の歌)
戊辰戦争では、幕府軍、新政府軍の双方に多大の犠牲者を出した、これは幕軍のものであfろうか。梅雨晴れの空を指しているところが痛々しい。
(明日の命を疑わず木の実を拾う歌)
境涯詠である。人間の命には限りがある。それを冷静に見つめている作者。愚痴になっていないのがいい。
(梟の鳴く夜の歌)
夜は特別な時間だ。その静寂は神々しくもあり、一種不気味でもある。その感覚をうまく掬い取った。
(光を散らす噴水の歌)
水は無色透明だが、噴水の水となって落下するときは、独特の光を帯びる。その寂寥感をいまく表現した。
どこに美やドラマ性を発見するか。これだ。