・美しき記憶のままに残さんか机の上の封書開かず・
僕の机の上には実際にこうした封書が束になっている。どんな封書か何故開かないかは読者のご想像に任せる。
・玉眼のもはや光らぬ仏像の古りたる指が虚空を差せり・
印象としては、六波羅蜜寺の空也上人像と東大寺大仏殿四天王が重なっている。こういうことも詩の世界では許容されていいだろう。
・満天星はかたくなに根を張りいたり嵐のあとの地層断面・
「満天星=どうだん」はつつじ科の植物。漢字が読めない人も多いだろうし、僕自身、短歌を詠むようになってから、知った表記だ。だが「ドウダン・ツツジ」では趣が台無し。敢えて「満天星」とした。
・声高に話す男ら不自然な笑みのまにまに頷いており・
「弱い犬ほどキャンキャン吠える」という言葉が、古今亭志ん朝の噺の枕にあった。これがいまでもわすれられない。(「たがや」)