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岩田亨の短歌工房 -斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・短歌・日本語-

短歌・日本語・斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・社会・歴史について考える

佐藤佐太郎42歳:孤独に酒を飲む

2010年03月25日 23時59分59秒 | 佐藤佐太郎の短歌を読む
・さわがしき中に酒を飲む悦楽のたとへば貝にこもる潮音・

「地表」所収。1951年(昭和26年)作。

 ようやく文筆活動もはじまったころ。しかし、「読売文学賞」「毎日歌壇選者」となって経済的にひと息つくのは翌年(1952年・昭和27年)のことである。そのせいか一首からは「帰潮」と同質の感情が窺える。

 旅行詠など歌調に余裕のようなものが見え始めるのは1952年(昭和27年)からである。1966年(昭和41年)の暮れに入院。病院で越年をして老いを急速に感じ始めているから、恵まれた環境での作品発表は、わずか10年余だったようだ。もっともその前後の「苦悩」が佐太郎の文学を形成したとも言えるのだが。

一首から伝わって来るのは、孤独に杯をかたむける作者像。「さわがしき中」というから周りには多くの人がいる。居酒屋かも知れぬし、結社の会員の集まりかも知れぬ。だがそれはどちらでもよい。酒をのむのは「悦楽」ではあるが、気持ちは「貝にこもる潮音」。ここが一首の中心であろう。

 周りに人があつまろうが、そうでなかろうが創作者は孤独である。みずからの責任で作品を創作し、その結果はみずからがとらねばならない。

 歌集を出したときに、

「歌集は出したとたんに独り歩きをはじめるよ。」

と声をかけてくれた先輩がいた。その言葉の意味はそんなところにもあったのだろう。





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