ブナの木通信「星座86号」
人間や社会を深く彫りさげた作品をこころがけたい。
(夕暮れに赤子とともに泣きじゃくる歌)
泣きじゃくる赤子の様を言い当てた。それを抱く大人のリアクションが面白くも悲しい。この面白さは人間への興味である。
(心に長年の拘りをもって夜の雪を見る歌)
何か重いものを背負う作者だろうか。長年持ち続けた思いだが、サラリと表現できた。その思いも雪によって溶けてゆくのだろう。
(震災が風化してゆく歌)
東日本大震災より今年で七年。復興いまだ途上だが、忘れ去られてゆくものは、とてつもなく大きいだろう。
(ゴミの分別が日々の節目となる歌)
ゴミの歌とは珍しいが、、言われればその通り。曜日によってゴミが分別される。これが生活の節目であると言う。作者独特の視点がここにある。
(皇居の花見とアンデパンダン展。どちらに行くか迷う歌)
伝統と権威のあるもの。それを全く認めないもの。その二者択一に作者は悩む。どちらを選んだかは問題ではない。
(春の風と地蔵百体の歌)
上の句の擬人的表現が気にならない。下の句の表現の重さが作品を支えているからだ。
(仲間と方言で声を掛け合う歌)
オリンピックのカーリングの一場面がそうだが、見ていないものにも共感できる作品。方言が活きている。そこに作品の普遍性がある。
(不吉な予感を感じて白百合を買う歌)
心理がうまくすくいあげられている。「不吉な予感」。それを白い花が消してゆくのだろう。
(雛の日に明日は豪雨の予報を聞く歌)
この作品も、心理を巧みに表現している。ただし、吉凶が前の作品とは逆なのに注目。
(電気を使う自分を嫁御に責めるな、という歌)
これも佳作。飾り気のない表現がいい。