「詩人の聲」2014年11月(1)
1、長谷川忍11月10日(月) 於)NOP法人東京自由大学(神田)
22回公演。長谷川は、生活する人間を主題とした作品を作っている。月に2編から3篇の新作を作り、聲に載せる。これを繰り返しながら、創作活動の軸にしている。20回までは、人間の風俗を描写し表現する傾向があったが、22回の今回は、作品に一層の厚みが出てきたようだ。登場する人間が自分を見つめたり、ものを考えたりする。人間の心理の底をそっと掬いあげるような作品だった。
研ぎ澄まされた言葉とリズム、聲。作品の風格が、一層出てきたようだ。厚みと深さがあるのである。旧作も読まれたが、旧作とは思えないほど、進展している。課題だった固有名詞も、有効に使われ作品に溶け込んでいる。
2、天童大人11月11日(火) 於)東京平和教会駒込チャペル
天童の作品はアニミズムだ。アニミズムではあるが、古代文明への畏敬の念と融合したアニミズムだ。聲に対する信頼と祈りに似た情感、そして古代文明への憧憬。これらが作品化されて、読まれた。
肉声に目覚めた頃の回想、聲の修行、イランでの経験を主題とした作品。これらが読まれた。アニミズムと古代への憧憬は、現代社会への鋭い批判となってくる。作品では「難民島」が圧巻だった。また聲の修行を主題とした「ヲルタービットの雪」は、長編叙事詩だが、それを求道者のように読んで行く。現在の自分を考える上で、この経験は欠かせないそうだ。
天童はこの作品を、「散文か、長編詩か分からない」と言ったが、言葉の省略や、全体のリズム、本人は意識していないようだったが、同じ行、同じ段、の韻を踏んでいる部分もあった。詩集一冊分の長編叙事詩と考えていいだろう。この日は聲が不調だったが、それでも47回目の公演。パッショネイトなリズムと、大きく響く聲は、他の参加詩人の追随を許さない。
3、福田知子 11月13日(木) 於)ギャルリー東京ユニマテ
25回公演。新詩集を意識して新作が読まれた。光、硝子がキーワードとなる作品が多く、透明感のある抒情が作品化されている。文語を有効に使い、それが作品に重みを加えている。しなやかな聲とリズム。
人間の存在理由を問うような作品もあって、主題が明確なものばかりだった。だがギリシャ神話をそのままなぞったような作品は、まだ成熟していない印象だ。全体として、理知的で緊張感のある表現だが、それを崩してしまう、甘い言葉があったのが、惜しまれる。
だが以前とはかなり違った表現世界を、作りつつあると感じた。
4、平岡けいこ 11月14日(金)東京平和教会駒込チャペル
3回目の公演。20代の詩集、『未完成な週末』が読まれた。聲は美しいが、気分に酔っている面がある。随所にセンスの良さを感じさせる作品が見られたが、全体にか細い。若い女性の呟きのような作品が多く。全体的に主題設定が甘い。
きれいな言葉をきれいに並べているいるだけの、印象が強い。だがところどころに、心に響く作品があって、今後の進展が、期待される。
現に平岡の第三詩集『幻肢痛(げんしつう)』には人間の葛藤、生命への祈りが表現されている。このプロジェクトでの公演回数を重ねることで、更に進展していくだろう。
5、岩崎迪子 11月20日(木)東京平和教会駒込チャペル
23回目の公演。1980年代に出した詩集が読まれた。家族、街、といったモチーフが作品化されている。骨格の太い文体で、厚みのある言葉遣い、人間を見る鋭い視線が感じられる。新刊の『丘の上の非常口』とは、全く異なる作風。23回の公演で、自分の体内のリズムが変わって来たのだろう。
新作が読まれた。生活の中の抒情が掬い取られ、リアリズムではないが、人間へのアイロニーが効いている。更に進展して行くだろう。今後が期待される。