・さながらに秋の光に灼けしもの風露草のもみじ小さけれども・
「地表」所収。1953年(昭和28年)作。
先ずは読みから。「灼けし」は「やけし」と読む。「風露草」は「ふうろそう」と読む。「フウロソウ属」の花の総称「イヨフウロ」「ハクサンフウロ」「アサマフウロ」などがあり、主に山地に自生する多年草。7月から9月のかけて花をつける。高さ1メートルにも満たない。
その「風露草」の葉が「もみじ」になっている。この場合の「もみじ」は紅葉(こうよう)のこと。文語では「もみづる」と言う。それも「秋の光に灼け」たように。秋とは言え、いまだ日差しは強い。その光に「灼け」たというのが詩的把握であろう。
風露草を見たことのない読者にも、風露草の色形が浮かんでくる。
それは「風露草」という漢字表記の字面。「風の露」と書く。いかにもささやかな印象が伝わってくる。
次に、「小さい」という虚語のはたらきによる。「どのような状態か」がよく分かるのである。
佐太郎の作品に共通しているものの一つだが、植物名を表す場合、見たことのない植物でも花の形状や姿の印象が伝わってくるのだ。つまり植物の属性(色や形状)に依りかからない作品なのである。
難解語がないのと共通の基本に立っているということだと思うが、特別な知識がなくても読み取れる。
佐太郎の作品に、地名・固有名詞が少ないのも同じ理由による。特別な知識がなければ読みとれない作品は、完成度が低い。
