岩田亨の短歌工房 -斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・短歌・日本語-

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蘇鉄の赤き実の歌:佐藤佐太郎の短歌

2022年12月13日 17時51分00秒 | 佐藤佐太郎の短歌を読む
・高倉の床に蘇鉄の赤き実を干せり古代の風ふくところ
 「アンソロジー海雲」所収。

 この作品には自註がある。
「安木屋場という部落に着くと、高倉という床の高い建物があった。南方系の様式で、日本の古代をしのばせる。床に蘇鉄の実が乾してあった。紬を織る機の音が聞こえていた。」
 
 これは佐藤佐太郎50歳の5月に奄美大島で詠んだ作品だ。
 
 奄美大島の高倉の復元家屋を見たことがある。方形の高床式倉庫で農作物を乾燥させる。奄美大島は湿度が高いから、ネズミ返しのついた高倉式倉庫で乾すのだ。
 ここから佐太郎は弥生時代の高床式倉庫を連想したのだろう。弥生時代のものと、奄美大島のものは形状が異なる。
 「古代の風吹くところ」は佐太郎の連想である。

 正確に言えば「弥生時代」は「原始時代」にはいり、古代ではない。だがこれを非難するのは適当ではない。作者がそう感じたのだ。「歌を詠むとき」は「地動説でいい」と佐太郎は言う。学術的正確さは短歌には必要ない。

 奄美大島の安木屋場で詠んだ歌だが「個別具体的」な「場所」は「捨象」されている。佐太郎が言う「表現の限定」である。

 赤い蘇鉄の実の色が「鮮明」に浮かぶ作品だ。




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