岩田亨の短歌工房 -斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・短歌・日本語-

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「敦盛」の幸若舞に謡われる齢までわがいのち保たん

2010年01月28日 23時59分59秒 | 岩田亨の作品紹介
この作品は歌集「夜の林檎」の末尾に配列した。それは、歌集を上梓するときの心情を最もよく表していたからである。ちなみに幸若舞の「敦盛」の台本は「人間五十年、下天の内をくらぶれば、・・・」の有名なフレーズを含む。

 2005年(平成17年)3月末、僕の胃は大量の出血をした。病院で胃癌と言われた。その夜に歌集を出そうと思ったのだった。

 歌集の「まえがき」「あとがき」ではそのことに一切触れないで、別の理屈をこねた。精一杯のやせ我慢だった。本当は「癌=死」という思いが頭のなかでグルグルしていた。当時僕は45歳だったから、「人間五十年、下天の内を比ぶれば、夢まぼろしの如くなり・・・」。50歳までせめて生きたいと思った。だから、この一首で歌集を終わらせるのは欠かすことのできないことだった。ところが・・・

 エピソード1。この一首はその年の「運河」5月号の巻頭に詞書なしで掲載された。作品批評は7月号だった。「敦盛の幸若舞にある熊谷次郎の寿命のことをさしていると思われるが・・・」とあった。

 熊谷次郎は80歳過ぎまで生きたとあるから、30年も開きがある。批評する側も、まさか今どき「人間50年」と考えている人間がいるとは思わなかっただろう。が、こう読まれるということは、作品の完成度が低いということ。そこで詞書を入れて歌集にのせた。

 エピソード2。今年2010年で僕は50歳になる。「人間50年」とすればあとは附録、とはいかなかった。それでも定期健診は受けているから、5年また5年と生きていくことになるだろう。癌の延命率は5年が目安と聞いている。






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