「星座α」18号 作品批評。
抒情ということ
短歌は定形の抒情詩。作者の思いや感情を表現しなければならない。
・(薄暮の海辺を見ながら半生を振り返る歌)
自己凝視の作品である。自らの生を省みている。人間を描くのが芸術とすれば、作者という人間を自ら描いているのだ。
・(外灯の下で夕闇が動く歌)
物理的に闇は動かない。だが、点滅する外灯の下では、闇が見え隠れする。これを感じた作者。夕暮の寂しげな情景がある。
・(人の気配のない家に白梅が散る歌)
人間は見えない。しかし、人の気配のない情景には抒情がある。情景とは心の景。叙景歌の成立する条件がここにある。
・(帰ることのない風の歌)
自在な詠い方。作者自身達観しているように思える。この作品は楽曲でいえば「レット・イット・ビー」だ。
・(夕日の差す歩廊で人影が届く歌)
夕暮の情景が立ちあがり、孤独感にも似た心情が伝わって来る。一首の冷涼感もある。人影が誰のものかは関係ない。
・(夜更けの負の思考の連鎖がとめどない歌)
真夜中に作者が自らを省みている。マイナスの情感が次々と浮かび上がるのだが、愚痴になっていないところがいい。
・(環状列石が秩序を保つ歌)
縄文の遺跡、環状列石である。かの時代アニミズム(呪術)の信仰の対象であるとされる。独特な抒情である。
・(自分の在りようを思いつつ夕日を見送る歌)
これも佳詠。作品が充実して目をみはっている。
*通常は6首選歌するが、出来の良いものがあれば7首、8首を選んだ。*