岩田亨の短歌工房 -斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・短歌・日本語-

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炎を詠う・佐藤佐太郎の短歌

2011年05月07日 23時59分59秒 | 佐藤佐太郎の短歌を読む
・平炉より鋳鍋にたぎちゐる炎火の真髄は白きかがやき・

「群丘」所収。1956年(昭和31年)作。岩波文庫「佐藤佐太郎歌集」106ページ。

 佐太郎の自註がある。

「千葉の製鉄工場を見学した時の作。とろとろにとけた鉄は炎となって鋳鍋に流れる。何千度あるか知らないがこの白く輝くものは火の中の火だといって讃嘆したのである。」(「及辰園百首」)

 いかにも佐太郎らしい簡潔な自註である。写実短歌では伊藤左千夫も斎藤茂吉も、焦点を絞ることを「単純化」「省略」などと呼ぶが、ここではその単純化が活きている。そういう特色をいくつか列挙してみる。

 先ず「千葉」「製鉄所」「鉄」などの語がない。「炎の輝き」に焦点を絞りきっているからである。

 それから虚と実。上の句は「実」(客観的事象)であり、下の句は「虚」(作者の主観)である。だが表現の核は「実」であり、根本的には「ものに即」している。

 象徴的写実歌(岡井隆)と呼ばれる所以である。「炎の輝き」の核心をつかんで離さない迫力がある。それは同時に詠まれた次の作品と比べればわかるだろう。

・火花とびほとばしりゐる熔鉄の赤き火白き炎のたぎち・

・沈痛のかがやき動く出鋼をやや高き位置に居りてわが見つ・

・火の極まりの白き輝そのうへに立てるはつかの緑もきびし・

・クレーンに吊られて移動する鋳鍋煙のごときかげろふをもつ・




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