第1065回 詩人の聲 岩田亨公演(6回目)
3月18日(火)於Cache-cache d'Art
「あえいおえおあお かけきこけこかこ させしそせそさそ たてちとてとたと
(発声練習)
今回は、私の第三歌集「剣の滴」の前半を読んできます。それに加え、制作中の20首詠、50首詠、56首詠も時間の許す限り読んでいきます。
・地の塩
ひそやかに物陰に咲くドクダミをベツレヘムの地の塩に例えん
・剣の滴は
濁りなき鮮紅色にありしとぞジャンヌ=ダルクの剣の滴は
・したたかに
したたかに幹に絡まる蔓草の葉が繁り居り夏の陽のもと
・責めるにあらず
誰かれを責めるにあらず照り返し強き街区のバス停に立つ
・汗吹き出ずる
しらじらと東の空が明るみて汗吹き出ずる敷き道のうえ
・風葬
静かなる終(つい)の儀式を風葬としたきわれなり砂漠が羨(とも)し
・記憶の連鎖
あることを思い出じれば次々と顕ちあらわれる記憶の連鎖
・心は凝る
地響きを立てつつ風吹く夜に居てひとつの思いに心は凝る
・封印を切る
割り切れぬ心持ちながら過ごす夜にジンジャーエールの封印を切る
・虹の色
夜を捨てる訳にもゆかず生きているわれにも虹の色は美し
・幻であれ
珈琲にミルク落として飲むときによぎる予感よ幻であれ
・虚数
実在をせざる数字を虚数とぞ呼びて拓ける世界を知らず
・落ち鮎
落ち鮎の腹子を食(は)みぬ格別に罪の意識を持つともなしに」
ここまでが僕の第三歌集「剣の滴」の前半だった。この作品群は、第二歌集「オリオンの剣」に敢えて収録しなかったものだ。しかし読み返してみると、「剣の滴」の作品群の方が完成度が高いのに驚いた。
だがもっと驚いたのは、「オリオンの剣」「剣の滴」は、ともに神奈川県歌人会の優秀歌集の最終選考に残ったのだが、二冊とも残せる作品は、半分ないということ。
このプロジェクトの目的が、「詩人を鍛える道場」とプロデューサーの天童大人は言う。参加している詩人の多くが、旧作を捨てている。旧作を捨てるところから新しい地平が見えて来るのだろう。
この後、新作の、30首詠、50首詠、56首詠を読んだ。このうち30首詠、50首詠は、聞きに来て頂いた詩人、評論家のかたに「完成度が高い」と評価された。これは嬉しかった。
しかし56首詠は、不用意に選んだ作品群だったので、「言葉に寄りかかっている」のを見破られてしまった。このプロジェクトは、こういった批評も受けられる場なのだ。普段の歌会では感じられない批評だった。