福田知子著 詩集「ノスタルギィ」 思潮社刊
この詩集は、四部立てである。そのなかに二十三篇の、詩が収録されている。著者の第五詩集だが、本の栞によるとそれまでになかっほど完成度が高いそうだ。
先ずは部立てを紹介しよう。
1、ひかりのほうへ 2、かぎりなくうたへ
3、かろやかな輪転 4、みどり、いくつかの光
二十三篇の作品にはいくつかのキーワードがある。「みどり、ひかり、神話、」。
作風は理知的で、リズムが快い。シベリア抑留、ゴールドラッシュに沸いた台湾の街など、現代社会への鋭い視線もある。
「碧いドンゴロス」が、シベリア抑留を体験し、絵に描き続けた画家を主題としたものだ。
「ジォウフェン」(原題は漢字)が、ゴールドラッシュに沸いた台湾の街をモチーフにした作品だ。
又、亡くなった詩人への挽歌や、芸術家達を育んできたスイスの景勝地をモチーフにした作品もある。
詩集の表題となった「ノスタルギィ」は、ドイツに素材を求めているが、ドイツの社会や現代史への批判的見方を暗示しているようだ。
また最後に収録された「肉球ぷにぷに」の末尾には、京都弁も活かされている。著者は京都在住の詩人だ。「神話、神社」といった、伝統と現代を見つめる作品もある。
全体を通しての主題は、「人間、みどり、ひかり」を一体に捉えた詩的世界の展開だ。
しかし著者にとって、この詩集が終着点ではあるまい。彼女は「詩人の聲」のプロジェクトで「聲を撃って」いる。これから新境地を開拓していくことだろう。
「詩人の聲」の公演での彼女の作品には出来、不出来がある。その点、この詩集に収録された作品は、選りすぐりのものだろう。