・夜のふけに犬は鎖音ひきて眠りのかたち選びゐるらし
「夕霧峠」所収。
場所・地名・犬の種類は「捨象」されている。佐藤佐太郎が言う「表現の限定」だが、作者は「余剰の切り落とし」と呼ぶ。「感動の中心」を明確にするために、「個別具体的なものを捨象」するのだ。
「NHK歌壇」のテキストに、作者が「犬は飼えない」と記述していたので、近隣の犬かと思う。
飼い犬が「眠る時にも、鎖に繋がれるのは、拘束」を連想させる。それを象徴的に表現したのが、「鎖音ひきて」というやや、破調気味の表現だ。
これは光景を詠っているが、心理詠の性格が強い。拘束を作者自身が忌避しているように思える。