岩田亨の短歌工房 -斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・短歌・日本語-

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愚母の歌:尾崎左永子の短歌

2022年09月16日 17時37分57秒 | 尾崎左永子(長澤一作・川島喜代詩)の短歌を読む
・愚母賢母まぎれもあらず愚母にして娘(こ)の決断におろおろとゐる

 「夕霧峠」所収。

 この歌集は作者が「釈超空賞」を受賞したものだ。それだけに秀歌が多い。「愚母」は「愚かな母」、「賢母」は「賢い母」。作者は己を「愚母」という。

 これを自虐と思うなかれ。「娘(こ)の決断」。どういう決断かは「捨象」されている。しかし「娘の自立」と容易に判断できる。「巣立つ娘」をまえに、心の動揺を抑えられない作者の姿がある。ここにも「表現の限定」がある。

 さらに珍しいのは「娘」と表記して「こ」と読ませているところ。通常作者は、かような表記を好まない。だが、ここで「子」のみであれば状況が把握できなくなる。「印象が鮮明」ではなくなる。「歌は印象鮮明なるがよし」とは斎藤茂吉の言。

 茂吉と佐太郎。この両巨頭の歌論と技法を引き継いで、「巣立つ娘を送る母の心情」をうたいあげた。「NHK歌壇」の番組では「今更ながら母性愛」を自覚した。と作者は述べている。





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