北海道の旅 (胃と胆嚢のない人間の受難!!)
初日に行った苫小牧は王子製紙の企業城下町である。市街地の中心に白煙を吐く巨大な煙突があり、その煙は苫小牧の駅や市街地からもハッキリ見える。ここのHIARATAアートスタジオで「第1回北の聲」の公演があった。
公演が終わって小樽に移動するあいだに、ハプニングが起こった。前を行く列車に蝦夷鹿が跳び込んだのだ。蝦夷鹿の体は大きい。自家用車と衝突して、車が大破したこともあるという。この巨大な鹿が跳び込んだのだから、肉は飛び散り、血液も大量に付着しただろう。これらのものを除去しなければ、列車の運行は不可能だ。作業に時間がかかり、2時間列車のなかで待機した。(ここまでなら他の乗客も経験しているが、僕には続きがあった。)
僕には胃と胆嚢がない。食べられるものが制限される。タケノコ、ゴボウ、コンニャク、キノコ、海藻、玄米、烏賊、蛸、海老、蟹、貝類は食べられない。
夜遅かったので列車内で弁当を食べることとなったが、弁当には、ホッキガイとコンニャクのお強(おこわ)、エビフライ、ヒジキの煮物、ゴボウの煮物があった。普段食べているものは、漬物くらいしかなかった。だが腹は減っている。エビフライ、ホッキガイ、ヒジキ、ゴボウ、コンニャクを必死になって噛み続けた。
噛んでいるうちに、一行は車に乗り換えた。僕は噛むのに必死で、お強(おこわ)を噛みながら改札を出た。前を見る余裕がなかったので、降りた駅で皆とはぐれてしまった。小さな駅なのにである。携帯電話が鳴って、位置を確かめ何とか合流できた。
その日の宿に着いて弁当を明かりの下で見た。やはり食べられない。持参した「飲むヨーグルト」とウエハースで栄養を採った。
三日目。札幌での話。地元の写真家が、回転寿司に連れて行ってくれた。回転寿司にはいるのは、初めてだった。東京近郊では、回転寿司は「ジャンクフード」と見做される。だが札幌の回転寿司は違っていた。ネタが新鮮なのだ。
そこで北海道ならではの、握り寿司を食べた。蛸の児と山山葵だ。普通山葵は水を張った畑で栽培されるが、山山葵は陸稲の様な畑で栽培される。味は普通の山葵より辛い。蛸も山葵も、僕にとっては要注意食材だ。これも必死に噛んだ。だが非常に旨かった。特に山山葵。体が温まり、新陳代謝がよくなるように感じた。事実、腸の機能が向上した。(下から出るものが出るのでよく分かる。)その代わり山山葵の握り寿司を食べる時はメガネを外した。涙が止まらなかったから。
最終目。台風の影響で帰りの航空機が欠航となった。宿にもう一泊することとなった。宿のオーナーが、「難民への差し入れです」と親切に肉まんを差しいれてくれた。翌朝の飛行機の出発時間は早い。朝食の時間はない。
有難い差し入れだったが、肉まんの餡がホタテガイだった。これも必死に噛んだ。それでも感触としては、腸が詰まりかけたようだった。そういう時は、黒烏龍茶、ゴマ麦茶、ヘルシア緑茶、カテキンウォーターを、一気に飲む。これでお腹の掃除が出来る。
胃と胆嚢のない人間が編み出した知恵。食べるのは、僕にとっての日々の格闘だ。
ただこうした格闘が、今の僕の生きる力に繋がっているところがある。これは大切にしたい。