予感16首詠 「星座77号」
・竜神が棲むと伝わる池の面に魚の跳ねたる音ひびきおり
・川口に逆波立てる昼すぎて霊柩車ゆっくりわが前を過ぐ
・鴨肉は野生に限ると狩人が誇らしく言う囲炉裏近くで
・洋菓子屋の扉の開く瞬間にただようオレンジリキュールの香
・スクリューの音途絶えたる廃港の護岸は半ば崩れていたり
・とげとげしき言葉かけられ拒まずに受け入れんとて天を見あぐる
・墓碑銘を指に辿れば期せずしてわが一族の名が書かれおり
・うすれゆく幼児期の記憶に残りたり千両の実の赤かりしこと
・陽気なるリズムなれども悲しかりライヴハウスにひびくピアノは
・営々と獲物を狙う禽獣のごとき視線を受けたりわれは
・雨足のまだ弱まらぬ真夜中に滅びゆくものは何と何ならん
・いにしえの秘宝はいずこ褐色の大地は今や戦場なるぞ
・ビルの間へゆっくり沈む太陽にわが死の予感不意に湧きくる
・忘れ得ぬ記憶まざまざと浮かびきて日すがら読めり南欧童話
・静かなる雨降り続く沼近く六角堂の鐘の音ひびく
・階段の踊り場に月の光さし黒き揚羽の骸を照らす
これは群作である。17首だが全て素材が違うが、統一したテーマがある。日常生活の中で不意に浮かんだ、予感、違和感、心の動きを表現する心理詠を集めた。一抹の寂しさのようなものを感じていただければ幸いだ。
この17首詠は尾崎主筆からのアドバイスがあって推敲する。前回は3度ばかり推敲した。だが今回はなかった。作品の完成度は高いはずだ。それもそうだ「運河」「星座」「星座α」の歌会にかけたものばかりで出席者に意見を聞いて作品の練り直しを行った。しかも一年かけて「詩人の聲」の公演にかけて詩人の意見も聞いて、さらに練り直した。
これはかつて「記憶」30首詠として、ある文学賞に応募したもの。選評では選考委員から「平凡だ」と断定された。もうその文学賞に応募するのはやめようかと考えている。